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「ペットと住めるグループホーム」の真価とは 精神障害者の置かれる状況は「待ったなし」

ペットと暮らせる障害者グループホーム「わおん」

ペットと暮らせる障害者グループホーム「わおん」。2018年5月にスタートし、34拠点が稼働している。写真は男性棟の外観。家屋のオーナーが庭木の世話をしてくれている棟もあるそう。近隣の人付き合いに溶け込みながら生活している(筆者撮影)

大きな特徴は、保護犬・保護猫やペットと暮らせること

障害者グループホームとは、障害者総合支援法で定められた障害福祉サービスの1つで、正式名称は「共同生活援助」。身体・知的・精神などさまざまな障害のある人が、サポートを受けながら、地域に根ざして自立した生活を送るための居住場所のことをいう。

わおん障がい者グループホームは今、34拠点が稼働中で、今後260カ所の開設が予定されている。いずれも4〜5人が集まる民家を活用したシェアハウス型のグループホームで、男女は別になっている。数拠点ごとに生活支援スタッフ(世話人)が1人担当しており、見回りや食事の世話、掃除、犬の散歩・世話などを行う。また、入居者30人当たりに1人のサービス管理責任者が配置されている。

大きな特徴は、施設から引き取った保護犬・保護猫や、居住者自身やスタッフのペットなど、動物と暮らせることだ。

まず居住者である障害者自身にとって、動物との触れ合いを通じて精神的な安定を得られたり、同居者や地域の人とのコミュニケーションがより行いやすくなるというメリットがある。

次に、現時点で年間約4万3000頭(環境省・平成29年度の数値)となっている犬猫殺処分数を低減していくことにもつながる。

一般住居を改築してグループホームとして活用できるため、全国で増えている空き家対策にも有効だ。

なお、2018年6月27日に公布(公布より1年以内施行)の建築基準法一部改正によって、空き家を福祉施設や商業施設に活用する場合、用途変更不要の規模上限が100㎡から200㎡へと引き上げられることになった。つまり面倒な手続きがなくなり、空き家をグループホームとして使いやすくなったということだ。

わおんを運営するのはケアペッツという、ペットの介護や看護、ペットシッターなどのホームケアサービスを展開する企業。動物看護師資格をもつペットシッターのみが登録されていることが売りとなっている。

設立は2016年と新しいが、展開はスピーディで、現在のところフランチャイズの店舗が全国に約90拠点存在する。飼い主だけでなくペットも高齢化し、ペットの介護問題が浮上するなど、ニーズが高まっているためだ。

ここまで説明してきたところでは、ペットの専門家が介護事業を始めたのかと思われるかもしれない。

しかし、実は代表の藤田英明氏はソーシャルワーカーとして、人の介護や福祉にも長い経験を持つ。2003年、夜間対応できるデイサービス施設を業界で初めて立ち上げた。こちらは全国で約850拠点に広がっている。

このように、ペットと人間という違いはあれど、現場で実際に困っていることをサポートし、サービスを広げてきたという点で共通点がある。

「日本に住む人の元気のなさ」の探求が今の道に

「子ども時代に親の仕事の関係でブラジルに住んでいました。貧しいし、社会も不安定だけれど人間は元気にあふれています。いっぽう日本に戻ってくると、豊かなのに自殺者の数は世界トップクラスで、人間に元気がない。『なぜだろう』と興味を持ちました」(藤田氏)

ケアペッツ代表取締役の藤田英明氏。

ケアペッツ代表取締役の藤田英明氏。29歳(人間で言えば165歳)まで生きた飼い猫のクロちゃんを介護したことが、ペットシッターサービスを開始するきっかけとなったという(筆者撮影)

その興味を追求しようと、明治学院大学の社会福祉学科に進むことになる。幼い頃から動物も大好きで、現在も実家に犬、猫、フェレット、鳥など多数飼っている。藤田氏が飼う犬や猫はなぜかいずれも長命で、一番の長老猫が26歳。かつて29歳まで生きた飼い猫がおり、その世話をしたことが、ケアペッツ設立のきっかけになったという。

そして、2018年5月に新たに立ち上げたのが、ペット共生型障がい者グループホーム。藤田氏のこれまでの実績、そして目指すところをドッキングさせたような事業だ。家賃は3万7000円で、食費、水光熱費、日用品費が含まれて利用者の負担は1カ月約7万5000円〜8万5000円。

「犬・猫の行政機関による殺処分数は数字上減っているといっても、実際にはお金をもらってペットの処分を行う『引き取り屋』という違法なサービスが暗躍しています。これは、平成25年施行の動物愛護法の改正が背景にあります」(藤田氏)

平成25年の改正とは、ブリーダーなどの動物取扱業者は、年齢が上がるなどして販売できなくなった動物も終生飼養する責務を定めたもの。実際のところそれでは利益が上がらないので、藤田氏の言う「引き取り屋」の出番になる。

なお、6月12日に改正動物愛護法が成立した。繁殖業者などを対象に、犬・猫へのマイクロチップの装着を義務化、また虐待した場合、5年以下または500万円以下の罰金など、厳罰化することなどが盛り込まれている。

「人間の福祉については、社会保障費の膨張を背景に、どんどん『国から地域へ』という流れになっています。発達障害、うつ病といった精神障害者についても、診療報酬が下がるので、病院は3カ月で退院させようとする。しかし受け入れる地域の側では、グループホームなどの受け皿が圧倒的に不足しています」(藤田氏)

退院促進には、精神障害のある人の回復や自立を促進する意味もあり、精神病院を廃絶するイタリアの「バザリア法」をはじめとして、先進諸国は精神病床をなくす、または減らす傾向にある。日本ではまだ入院患者数が30万人以上おり、今後、年間70万人以上が退院してくる。このままだと、そのうちの多くが行き場を失う。

今まさに「退院して居住場所のない人がどこに流れているかというと、ネットカフェ」(藤田氏)という待ったなしの状況だ。

他者との関わりに、ペットが橋渡しとなる面も大きい

2018年6月にオープンした千葉県内のホームを見学させてもらった。入居している女性に聞くと「体験ということだったが、ペットと一緒に住めるところはほかにないので、体験して即入居。実質は一択だった」と冗談混じりに語る。

障害者と一口に言っても、さまざまな人がいる。わおん障がい者グループホームの利用者には、精神障害の人が比較的多い。DVなど家庭環境が原因でうつ病を発症し、自宅での療養ができない人もいる。

暮らしぶりについては「他人と暮らすのは最初大変だった。今は居住者同士で話したり、一緒に食事をしたり、楽しいことが多いです」という。筆者が見ていても、同居している女性同士や、同行した藤田氏とも気兼ねなく気楽に話しているように感じた。

男性棟のキッチン。食事の準備や掃除などはケアペッツのスタッフが行う。
男性棟のキッチン。食事の準備や掃除などはケアペッツのスタッフが行う(筆者撮影)

人間関係で傷を受けた人は、他者との関わりが難しいものの、ペットが橋渡しとなる面も大きいという。犬の散歩に行けば、近所の住民と触れ合うきっかけになる。

もう1棟見学させてもらった男性棟では、「みりんちゃん」という中型の犬がパートナーになっている。人懐こく、優しい性質とのことで、見学者などが訪れると愛想よく振る舞って“営業”をするのだそうだ。

みんなから「たっちゃん」と呼ばれている22歳の渡辺さん(仮名)は、入院していた病院でパンフレットを見て、「ワンちゃんと暮らせる!」と、即入居を決めたという。

千葉県内のグループホームに暮らす、推定年齢6歳のみりんちゃん(筆者撮影)

「仕事から帰ってくると、『おかえり』と迎えてくれるようで、とても癒されます。みーちゃん(みりん)のほうも、僕がいるとうれしいみたいで、休みの日なんかはそばで安心して寝ています」(渡辺さん)

渡辺さんは運送会社で8時半から4時半まで事務管理の仕事についている。居住者が過ごすダイニングのそばが自室なのだが、間の障子を開け放って過ごすほど、開けっぴろげでフレンドリー。以前はよくてんかんの発作を起こしていたが、今のグループホームに暮らすようになってから、回数が少なくなったそうだ。

条件付きではあるが、その目的は果たされている

今回、男性、女性それぞれ1拠点ずつを見学しただけだが、それぞれストレスなく暮らせているように見えた。グループホームの目的は、困難を抱えた人が自立できるようになること。このグループホームに暮らしている限り、という条件付きではあるが、その目的は果たされているように思える。そして社会に溶け込み、人と支え合って暮らせるのなら、条件付きの自立でも構わないのではないだろうか。

なお、わおんグループホームの経営は、フランチャイズのような形で参画企業に任されるという。といっても、フランチャイズより自由度が高く、運営サポートが得られる独自の「レベニューシェア方式」を採用しているそうだ。

最低自己資金200万円程度から事業を始められる「ビーグルコース」から、800万円の「グレートデンコース」まで、4種類のプランが設けられている。

今、国内の障害者数は990万人、人口の8.2パーセントに上るという。そして藤田氏によると、今後増えていく可能性が高いそうだ。

今、世界的な課題となっているSDGsでは、地球上の動植物や、いろいろな個性を持つ人、すべてが共に生きられる持続可能な社会が目標となっている。福祉や支援についての考え方も変わりつつある。


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