なぜ発達障害の部下を「叱って」はいけないのか?(zon/PIXTA)
同じようなミスを繰り返す、何度催促してもレスポンスが返ってこない。そんな「要領の悪い部下」に悩む上司は多いと思います。しかし、彼らは決して仕事のやる気がないわけではありません。日本では、20人に1人が発達障害と診断されており、グレーゾーンの人も含めるともっと多いと言われています。不注意、多動性、衝動性の症状が特徴で、その特性がゆえに、「普通に働く」ことに困難さを感じる人がたくさんいます。そんな彼らにとっては、上司が良かれと思ってやっていることが実は逆効果、ということがあるのです。『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』(共著:F太)の著者で、自身もADHD(注意欠如・多動症)と診断されている小鳥遊(たかなし)さんが、詳しく解説します。
これまでの私はしくじりの連続でした。20代は司法書士試験の勉強に明け暮れるも、結局不合格。その後アルバイトで入った司法書士事務所と不動産会社では、ほぼクビ同然で退職。やっと定職についても、いつミスするかとビクビクしっぱなし。上司の眉間にシワが寄るだけで心が砕かれる毎日でした。
案の定、仕事がうまく進められず、「なんて自分はダメなんだ!」と自分を責め続けて休職(しかも2回!)。そんな私が今、安心して会社勤めを続けられているのです。自分の傾向は今も昔も変わっていません。仕事のやり方を変えただけです。
これまでの経験から「発達障害の特性を持つ人に、こんな接し方はNG」という具体例を紹介します。発達障害と一言で言ってもその特性や悩みはさまざまです。
あくまで私と同じような「抜け漏れが多い」「先送りグセがある」「マルチタスクが苦手」といった傾向を持つタイプの例として、参考にしていただければ幸いです。
目次
「怒らないでください」
私が今の会社の社長面接でいった言葉です。私は「発達障害」という特徴があり、注意欠如・多動症(ADHD)と診断されています。とくに注意欠如の傾向が大きいので仕事での失敗が多く、ミスすることに関して過剰反応するようになってしまいました。怒られると即極端な自己否定に陥り、思考が停止してしまいます。
職場で誰かが叱咤されているだけでも、集中力が低下。自分が怒られているわけでもないのに、気持ちも持っていかれてしまいます。怒られない状況でいられるかどうかは、死活問題なのです。
今の会社は、障害者雇用での採用でした。障害者雇用は、会社側に「合理的配慮義務」があります。障害からくる困難を取り除いて、障害者本人が働きやすい環境にしなければいけないというものです。
面接での「怒らないでください」は、社長からの「会社として配慮することはありますか?」に対する答え。そしてこう続けました。「その代わり、仕事はきちんとやるようにします。直すべきことがあれば、提案という形で伝えてもらえるとありがたいです」。数年経った今でも、その約束は守ってくれています。
部下や後輩のミスは叱ってあげるのが相手の成長のため、という考え方もあります。けれどその考えは、必ずしも全員に当てはまるわけではないことを理解していただければと思います。
メールをなかなか送れないときがあります。ミスの訂正やお詫びのメール。日頃から怖い上司へのお伺いメール。書くのが憂鬱なメールです。
「やるしかないんだから、さっさと覚悟を決めて送ろう!」と思うものの、手が止まりがちです。
そこで私は、メールを送るという行為を、①書く、②編集する、③送信するの3つの手順に分けてみることにしました。
手順1: 書く
まずはメールを書き始めます。「送る」のではありません。「書く」のです。メールを送るという目的はとりあえず置いておいて、自分の気持ち・考えを整理するために書くのだと言い聞かせます。
順番はこんな感じです。
● 冒頭の挨拶を書く
● 最後の締めの文章を書く
● 伝えるべき内容を簡単に箇条書き
● 下書きフォルダに保存
ここで大事なのは、「送らなきゃ」というプレッシャーから自分を解放することです。
手順2:編集する
次に編集作業です。まだ送りません。文の体裁を整えるためだからと自分に言い聞かせて、書いた文章に目を通します。順番はこんな感じです。
● 箇条書きを文章にする
● わかりにくいところを修正する
● てにをはを修正する
うまく書けなかったら、また下書きフォルダに保存すればいいや!くらいの気持ちでいるとラクになります。
手順3:送信する
いよいよ送信です。もう目の前には文章がほぼ完成しています。「あとは送信ボタンを押すだけ」という気持ちで最終チェックです。順番はこんな感じです。
● 宛先のメールアドレスをチェック
● 先方の社名、氏名をチェック
● 添付データをチェック
「ここまできたら、送っちゃおう」という気持ちになれます。着手したらその勢いで終わらせたくなる心理(作業興奮といいます)を利用して、送信ボタンを押します。
もし、あなたが「部下や後輩からなかなかメールの返信が返ってこない」「いつもレスポンスが遅い」と悩んでいる場合は、メールを送るという作業は、上記のように、「書く」「編集する」「送る」の3つの手順に分解できることを教えてあげてください。
なかなか取引先にメールを送れず悩んでいる部下がいたら、まずは下書き保存したメールを上司がチェックする、などすると良いかもしれません。
私は、抽象的な話を理解するのが苦手です。勝手に変な方向に解釈して話を進めて「そうじゃないんだよ……」と言われたことは数知れず。
そこで、あいまいなことを言われたら必ず「具体的にどういうことか」と質問することにしています。例えば職場でよく使われる「確認」という言葉。「メール送ったから“確認” しておいて」と言われるだけで引っかかってしまいます。
「メール確認してくれた?」
「はい。読みました」
「で、どうだった?」
「どうだった……といいますと?」
「間違いとかなかったかって聞いているの!」
「すみません! そういうことだったんですか!?」
これは極端な話ですが、自分なら最初の時点で「チェックして返信したほうがいいですか?」と質問します。面倒な奴と思われそうでも、具体的な表現に落とし込んでいます。結果としてお互いのコミュニケーションの行き違いを防ぐことができます。
あいまいな言葉一覧(画像:要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑より)
もし「見当違いな行動をする部下だなあ」「何度言ってもわからないのはなぜだろう?」と感じたら、それはあなたのあいまいな伝え方が原因かもしれません。具体的な表現を意識してコミュニケーションしてみてください。