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「田舎の長男」との結婚に絶望した彼女の告白 婚約したが解消、平凡を望んだ末に見た地獄

一時の情熱や恋愛感情に突っ走ってしまうと…

一時の情熱や恋愛感情に突っ走ってしまうと…(筆者撮影)

単純計算すると3組に1組の夫婦が離婚している日本。そこに至るまでの理由は多種多様だ。そもそも1組の男女が、どこでどうすれ違い、別れを選んだのか。それを選択した一人ひとりの人生をピックアップする本連載の第7回。

大自然マジックで、農家の長男と婚約

「農家の長男との婚約は、地獄でした。今思うと、本当にあれは悪夢です。今でも、あの村での日々を思い出すとゾッとしますね」

そう語るのは、都内の教育関係の会社のOLとして働く須藤百合子さん(44)だ。百合子さんは、28歳の時に結婚し32歳で離婚。その後、農家の長男と婚約まで行き着くが、結婚寸前で思いとどまり、ギリギリで婚約破棄。百合子さんが「地獄」と断言する壮絶な女の軌跡を追った。

大学卒業後、予備校で塾講師として働いていた百合子さんは、1年間同棲していた2歳年上の職場の先輩と結婚した。

「結婚って世間体だと思っていて、私も人並みに結婚して、子どもが欲しかった。30歳前になると、周りの友達がバタバタと結婚していくから、波に乗り遅れないようにと焦って当時同棲していた彼と結婚しました。

結婚しても共働きだったし、経済的には何不自由ない生活でした。だけど財布も完全に独立会計で、家事も分担制で寮生活みたいだったんです。仲は良かったけど、お兄ちゃんと生活しているみたいな感じで、ときめきもなかった。子どももできなかったこともあり、お互いまだやり直せるうちに別れようという話になって、トラブルもなく円満離婚しました」

再び一人暮らしに戻り、時間を持て余すようになった百合子さんは、思いつきで簿記の資格学校に通い始めた。

そこで出会ったのが、東京から車で3~4時間かかる、ある県の兼業農家の長男である2歳年下の隆一(30)だった。隆一は資格取得とリフレッシュを兼ねて、その県から毎週高速バスで上京していた。

結婚生活にほとほと疲れ果てた百合子さんは、隆一の都会の男にはない「押しの強さ」に引かれた。

「出会ってそんなに経ってないのに、『君と結婚したい』って猛烈アタックしてきたんですよ。『なんて情熱的な男なの!』って、思わずポーッとなってしまいました。離婚した直後だったし、私、まだ女として終わってないんだと感じて、舞い上がってしまったんですよね。『とにかく早く君と結婚したい、親にも君を早く紹介したいんだ』って言ってくれて、心が動いてしまったんです。そこからとんとん拍子に婚約して、彼の実家にあいさつに行きました。そこは、映画に出てくるような田んぼしかない本当のド田舎でした」

早く男の子を生んで、将来は私たちの面倒を

山間部に位置する隆一の実家は、大自然とのどかな田園風景が広がっていた。澄んだ空気に、全身に力がみなぎるのを感じた。

隆一の実家に足を運ぶと、両親は手作りの郷土料理をテーブルいっぱいに並べて、百合子さんをもてなしてくれた。なんて良い人たちだろう。こんな田舎で大好きな人と一生を送る人生もすてきかもしれない、百合子さんはそう感じた。

隆一の両親が、突然同居話を持ち出すまでは――。

「彼のお母さんから、いきなり『東京の人だから、同居はなじめないかもしれないでしょ。だから、こっちが百歩譲って二世帯住宅にうちを作り替える』という話が始まったんです。頭が混乱しましたね。だって、さっき会ったばかりなんですよ。でもそんなことなんてお構いなしに、『百合子さんも早く男の子を生んでもらって、私たちの面倒を見てもらわないと』って言うんです。

『いや、同居とか二世帯住宅とか、ちょっと待ってください』と言ったら、彼が『母さんの言うとおりだよ~』ってコロッと手のひらを返したんです。私、この村に軟禁されて、一生出られなくなるんじゃないかという恐怖を感じました』

後ほど隆一に問いただすと、「この村では、『私たちの面倒を見てね』という言葉は、君を受け入れたという意味なんだよ。よかったね」と笑っている。それって重荷だし、怖いと百合子さんは背筋が凍るのを感じた。

まだ婚約段階なのにもかかわらず、嫁が来るという噂はあっという間に村中に広まり、長老たちが続々と隆一の家に集まってきた。長老たちは、百合子の顔をいやらしそうな目でなめ回すように見ると、「結婚式は村のしきたりに沿った式にしてもらう」と百合子さんに告げた。すぐに村の公民館で長老たちの会議が始まり、百合子さんはドン引きしたが何も言えなかった。

百合子さんは、それでもまだ隆一を信じたい気持ちもあった。同居を迫る隆一の両親を何とか説き伏せ、村の近くにアパートを借りて、仕事を探し、まずは一人で生活することになった。

「意外かと思われるかもしれませんが、村人は外部から来た人に決して、ウェルカムじゃないんです。向こうで仕事を探そうと思っても、地元の企業には東京の人だと就職できない。『この村の者じゃないよね』『村のどの学校出たの?』と聞かれる。東京から来たというと、それだけでアウトなんですよ」

結局、百合子さんが就職できたのは、東京に本社のある食品の工場だった。

女のバツイチは村の恥

村にとって、離婚歴のある女性はそれだけで恥という存在だった。隆一は、百合子がバツイチであることを「村に知られたら大変だ」とおびえていた。隆一に聞くと、「百合子がバツイチであることは母親のみが知っていて、父親や村の住民たちには金輪際、隠し通すつもりだ」と言う。隠していてもいつかバレるから、せめて彼のお父さんには早く言ったほうがいいと百合子さんは隆一に伝えたが、聞く耳を持たなかった。

百合子さんは、前の夫との間に子どもがいなかったこともあり、土日には2人で海や山などのレジャーを楽しむのが、日課だった。

しかし、せっかくの土日にどこかに外出したいと百合子さんが隆一にせがんでも、首を縦に振らなかった。土日は早朝から夜遅くまで、地元の消防訓練がある。それが、村の男のしきたりだと言うのだ。

「『土日に遊びにいかないの?』って聞いたら、『いや、土日は消防が当たり前だろ。女はそこにご飯とか総菜を作って持ってくると決まっているんだ』って言うんです。聞くと土日祝日は村の男衆が集まって、公民館で消防の朝練を朝5時からして、その後は夕方まで飲み食いしているんです。彼のお母さんも村の女性たちも、みんなそのしきたりがあるから休日でも遊びに行くこともない。『消防って、それ楽しいの?』と彼に聞いたら『いや、楽しいとかそういうものじゃなく、それが村のしきたりだ』としか言わないんですよ。とにかくあぜんとしましたね」

百合子さんも、毎週土日は食べ物や飲み物の差し入れを強いられ、その時間が苦痛で仕方なかった。なんでこんなところに来てしまったんだろうと思うと、泣きたくなった。

「今思うと、彼も嫁要員を見つけるのに必死だったんでしょうね。村で30代というと、子どもが3人くらいいるのがデフォルトなんですよ。異常に地域の連帯感が強いから、消防の応援とか、地域の行事に家族ぐるみで行かなきゃいけない。むしろそれがステータスなんです。そこで30代独身の男性がいると、めちゃくちゃ肩身が狭い。『あいつは、何か性格に問題がある』と陰口をささやかれる。

田舎って、一見癒やしだと勘違いしてしまうんですが、実は閉鎖的で多様な生き方が一切認められないんです。そんな中でも特に犠牲になるのは女なんだと、身をもって実感しましたね」

年に数回ある祭りは強制参加で、女性は料理をして、陰で支えると決まっている。村人の冠婚葬祭があると、仕事を休んで男たちのおもてなしをしなければならない。

そもそも村に住んでいる限りは行事に参加しないという選択肢はない。村に住んでいると、男尊女卑は当たり前で、何かと女だけが馬車馬のように働かされる事実に、百合子さんは違和感を覚えずにはいられなかった。

村の生活に悩み困り果てた百合子さんは、ある日Iターンで東京からやってきたリンゴ園を経営する男性と知り合い悩みを打ち明けた。

喜んで受け入れられると思い込んでいた

すると男性は、「わかるよ。僕も、村の人たちに田舎でリンゴ園やるなんて、立派だと歓迎されると思って東京から来たんだ。でも甘かったよ」と、肩を落とした。

男性は東京生まれだったが、田舎の自然の豊かさに引かれて脱サラ、一念発起し、リンゴ園を開業した。村は、どの地方も抱える問題と同じように少子高齢化の波が押し寄せ、過疎化している。そんな中、まだ30代だった男性は村の貴重な労働力として、喜んで受け入れられると思い込んでいた。しかし、村の住民たちの反応は違った。

男性が東京からやってきたことを話すと、村の住民たちは顔色を変えた。そして、突然、「親を東京に置いてくるなんて、この親不孝者め!!」と罵り始めた。男性は住民たちのいじめに遭い、そのまま村八分になってしまったという。結局男性は、Iターン組だけでグループを形成し、村の住民との交流は完全に断絶していると苦しい胸の内を打ち明けてくれた。

日々息が詰まるような生活を強いられた百合子さんは、たまには1人で羽を伸ばしたいと思い立ち、ある日、1人で高速バスになって大阪に買い物に出かけた。すると村中にその噂が広がり、地元では大騒動になっていた。

「休みの日に女が1人で遠出をするなんて許せん!」

百合子さんは隆一の父親に怒鳴られ、村の住民や家族から大目玉を食らい、その後も白い目で見られ続けた。

「たかが買い物ですよ。女1人で買い物も許されないんです。同じ日本でも、文化が違うだけでこれだけわかり合えないのかと思いましたね。やってられないと思いました」

もう限界だと百合子さんは、隆一との婚約破棄を決意。それを隆一に告げると、携帯の留守電には毎日何十件も「ふざけんじゃねーよ! ぶっころすぞ!」と罵りの電話が入るようになった。恐怖を感じた百合子さんは、弁護士に相談し、命からがら東京へと逃げ出した。結果、隆一とは婚約破棄となった。

恐怖の村から脱出し、東京に帰還

恐怖の村から脱出した百合子さんは東京に戻り、教育関係の仕事を見つけ、そこで知り合った会社員の男性と再婚し、長男を出産。現在は地方出張もこなすなど、バリキャリとして、多忙な日々を送っている。今の夫は働く百合子さんを応援し、子育てにも積極的だ。

「自分の両親には、『あの男とだけは、結婚しなくてよかったね』と言われます。今もあの村に住んでいたら、きっと今のように私が働くことなんか、絶対認めてもらえなかったはずです。ましてや今の仕事のように、遠方に出張とかは無理だったでしょうね。よくテレビで、都会の女性と田舎の男のお見合いの番組とかやってるじゃないですか。あれを見ると、『本当に大丈夫? 私みたいにブラックホールに落ちないでね』って言いたくなっちゃうんです」

人並みの結婚を目指していただけなのに、いつしか思わぬ泥沼にハマりかけ、危機一髪のところで、なんとかはい上がった百合子さん。百合子さんがこれらの経験を経て得た教訓は、一時の情熱や恋愛感情で突っ走らず、結婚相手の周辺に目を向けることの大切さだ。相手の家族だけでなく、相手を取り巻く環境を今一度よく見渡してほしい、と百合子さんは最後に力強いまなざしで語ってくれた。


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