私はプリマリタル(結婚前)・カウンセラーとして、多くのカップルの恋愛や結婚についての悩みや相談に答え、対話をしてきました。その経験から、断言できることがあります。
それは、うまくいかないカップルには「共通の問題」があるということです。そのひとつが、親からまかれた「毒」による悪影響という問題です。
世間では「毒親(どくおや)」という言葉をよく耳にするようになりました。
「毒親」などと言われると、善良で子どもを愛している母親たちにとっては違和感があるでしょう。明らかに存在そのものが「悪」であるという性根が曲がった人間でないかぎり、毒などと言われることには抵抗があって当然です。
ところが、どんなに良い人でも、温厚で優しく、愛にあふれた人であっても、母としてわが子に与える影響が必ずしもよいことだけであるとは限りませんよね。よかれと思ってやったことが、子どもには正しく伝わらなかったということはよくあるでしょう。
親が毒でなくても、結果的に子どもに与えた影響が、その子にとってはマイナスのものとなってしまうという不幸は、実のところどんな親子の関係でも起こりえることです。
親から受け継がれたマイナスの影響……私はこれを、「毒親(どくおや)」ならぬ「親毒(おやどく)」と呼んでいます。
目次
あるとき、百合香さん(仮名)という女性が相談に来ました。
理想的だと思える男性と交際していて、ついにプロポーズされたのです。夢にまで見た結婚でしたが、彼女の心はその瞬間から曇り出していました。うれしいのに喜べない状態に陥ってしまったのです。
「彼じゃ、お母さんが認めてくれない……どうしよう……」
彼の学歴が、彼女の母親が認めているレベルよりも低かったからです。この不安が彼女から喜びを完全に奪い去ってしまったのです。
百合香さんの母親は、細かい生活全般に渡って、いちいち口を出す人でした。話を聞けば、まさに過干渉そのもの。ちょっと度が過ぎていると感じるものでした。下着の色までチェックしたというのですからね。
百合香さんは小学校のときから私立の女子校に通っていたのですが、学校の規則が厳しくて、下着の推奨メーカーまで決まっていました。もちろん色は白以外認められていません。
離婚して、女手ひとつで娘を育ててきた母親は、彼女を問題児にしたくない一心で、校則をきっちりと守らせるために、下着の色から始まってスカートの丈の長さや爪の長さまで、いちいちチェックしたといいます。
そんな極度に過干渉の母親と2人だけでずっと生活してきましたから、百合香さんは彼女にとってはそれが常識となっていました。
でもだんだんと大人になって、自分の人生を考え始めたとき、違和感を覚えるようになったのです。
「マレさん、私は自動販売機でジュースを買うときでさえ、『これは母親が怒るかな』と思ってしまうんです」
彼女の状態は深刻でした。彼女の心は完全に母親のおりに入れられてしまっていたのです。ですから、彼からプロポーズされたという最も喜ぶべきときに、彼女の心には大きな不安が押し寄せていたのです。
母親は一生懸命でした。決して毒親と呼ばれるような悪人ではありません。けれども結果として、百合香さんの中で、母親の影響は毒化し、結婚を真剣に考え始めたとき、その影響の深刻さが一気に顕在化したのでした。
親から自立できていない人は、親の干渉を許してしまいます。でも、それが異常だと気づきません。親に喜んでもらいたいから当然だと考えてしまいやすいのです。
自立できている状態というのは、内部に存在している親毒に対する耐性が十分働いて、「自分で決める」という当たり前なことが、あらゆる場面で普通にできることです。
その決定に、毒素によるマイナスの影響が働かないということです。しかし、これが実に難しいことなのです。
なぜならば、それが毒であると認識していない場合、それを排除することはできないのですから。親毒の持っている毒素の中でいちばんタチの悪い働きは「麻痺」させるということです。
これは、それが本心では不本意なことであっても「これでいいのだ」と思わせてしまう猛毒です。
このままいくと、彼女は結婚もできません。結婚することさえ、母を不幸にすることなのだと思い込み始めていたからです。
母からまかれた罪悪感に縛られ、母のために生きる人生に幸福はありません。子どもにとって、最大の親孝行は、自分が幸せになることです。幸せにならなければ、親に感謝することもできません。
子どもから感謝されない親はどれほど不幸でしょうか。
私はたくさんの実例を目撃しています。親が死んだとき、涙も出なかったとか、うれしかったと語る人々を。そして、死の床に伏しながら、わが子に恨まれて死んでいくことを嘆いている悲惨な親の姿を。
だから私はおすすめしています。結婚して幸せになりたいなら、親の意見を無視しなさいと。
それは、親の存在を無視することでも、親の助言や意見を聞かないということでもありません。親ではなく、自分が主体的に、天から授かった命を大切にし、自分の命に責任を持って生きるという意思を決然として持つということです。
その人生を満開に咲かせることこそが、本当の親孝行なのです。
一般的にカップルが別れてしまういちばんの理由は「性格の不一致」だと言われています。1分に1組が結婚し、約2分10秒台に1組が離婚しています。そして、そのほとんどの人たちが「問題は性格の不一致」だと言うのです。
ここにこそ、親毒の大きな影響が見て取れます。
前述したとおり、人の性格は育った環境によって大きく影響を受けます。ですから、性格の不一致だと当事者が感じるようなタイプの問題は、元をたどれば、その性格ができあがるに至った根源的な理由のひとつ、つまり、親にまで行き着くことが多いのです。
これは、ちょっと見方を変えれば、約2分に1組のカップルが親から与えられた「毒」によって離婚していると言うこともできるのです。
しかし、私たちは、どこまでが親の影響で、どこまでがそうでないのかを客観的に切り分けて考えることができません。
親の影響は、私たちの人格の一部として存在しているからです。
カップルのカウンセリングをしていると、基本的にほとんどの女性たちは、自分の彼が「マザコン」ではないかと不安を感じていることがわかります。
「彼ったら、週に1度は必ず実家に行ってお母さんと過ごすんです。これって変じゃありませんか?」とか、「義母は、暇さえあれば電話をしてきて『ちゃんとごはん食べてるの?』なんてチェックするんですよ」などなど、多くの女性たちが彼ママの存在に違和感と脅威を感じています。
本人にしてみると、これらはみな当たり前にしていることで、何の問題もないと感じることです。ですから、それを指摘されること自体が不愉快だし、むしろそのことに違和感を覚えます。
マザコンに対する違和感は「自分よりも母親のほうが近い存在なの?」という不安です。
自分よりも彼ママのほうが、彼に近いと感じるなんて、彼女にとっては致命的です。誰よりも「私がいちばん大切」な存在なのだと信じられなければ、夫婦関係を築いていくことはできません。
これは彼にとっての「親という存在の質」に対する違和感であり不安です。彼にとっては自然なことでも、パートナーから見ると「違和感」があり「異常」と思えるのです。でも本人がそれを自覚していないわけです。
この毒は非常に厄介なものです。潜伏期間に悪さをしなかっただけで、条件がそろうとアクティブになるという性質を持っています。
どんな人であっても、親毒の影響が一気に顕在化するのが、本気で結婚しようと思ったときです。自分がいかに親の影響を当たり前に感じていたかを、おそらく誰もまざまざと見せつけられるとき、それが結婚なのです。
結婚が決まると、2人はさっそく結婚式の準備を始めます。この時期のカップルがいちばん壊れやすい状態です。それまでは2人だけのロマンスを楽しんでいたのに、具体的に式の準備を始めた瞬間から「親の意向」が登場し、それに対応しなければいけなくなるからです。
結婚式場をどこにするかから始まり、招待客の数、料理の値段、引き出物の種類など、決めることが沢山あります。結婚式に切っても切れない諸々を決めていく中で多くのトラブルが発生します。
親と無関係に2人だけで好きなように決められればいいのですが、なかなかそういうわけにはいきません。自分の親の意向や、相手の親の考えを無視できない場面が多くなってくるのです。
いちばん厄介なのは、自分の親と相手の親の考えが違うときです。相手の親と自分の親との間に入って調整役をしなければならなくなります。
この段階で、2人の「自立度」が試されます。別の言い方をすれば、親毒に対する「耐性」が試されることになるのです。