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「知的・精神障害者」の知られざる働き方の実態 3つの事例から見る労働問題の「一断面」とは

ラインを流れるペットボトルや缶などを選別する知的障害者(写真:藤沢市資源循環協同組合)

ラインを流れるペットボトルや缶などを選別する知的障害者(写真:藤沢市資源循環協同組合)

「働き方改革」がさまざまな職場で行われている。新聞、テレビなどが残業の削減、在宅勤務、有給休暇消化促進、女性の管理職育成などを盛んに取り上げる。一方で、マスメディアが積極的に報じようとしないのが、改革が実施されているはずの知的障害者や精神障害者の雇用である。

厚生労働省は2018年4月に、体や心などに障害がある人の数は約936万6000人との推計を公表した。日本の全人口に占める割合は約7.4%となる。また、厚生労働省が同年6月に実施した障害者雇用実態調査では、全国の従業員規模5人以上の事業所で働く障害者は推計82万1000人となり過去最多を更新。内訳は身体障害42万3000人、知的障害18万9000人、精神障害20万人、発達障害3万9000人(複数の障害がある人は別々に計上)。

障害者雇用が進む背景には、好景気や人手不足に加え、企業の法定雇用率(従業員に占める障害者の割合)が2018年4月に2.0%から2.2%に引き上げられたことがあると考えられる。

本稿では、知的・精神障害者ら“少数派の働き方”を取り上げる。これまでの報道で「少数派」と言えば、女性や高齢者、身体障害者、外国人が多かった。その意味では、知的・精神障害者は「少数派の中の少数派」と捉えることができるのかもしれない。知られざる働き方を見つめ直し、労働問題の「一断面」をあぶりだしたい。

※なお、知的・精神障害者の定義は、厚生労働省の平成30年度障害者雇用実態調査結果の「調査概要」によるものとする。

●知的障害者知的障害者とは、法に規定される知的障害者をいう。具体的には児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医又は障害者職業センターによって知的障害があると判定された者をいう。

また、重度知的障害者とは次のイからハまでのいずれかの者をいう。

イ  療育手帳(愛の手帳等他の名称の場合も含む。)で程度が「A」(「愛の手帳」の場合は「1度」及び「2度」)とされている者
ロ  児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医から療育手帳の「A」に相当する判定書をもらっている者
ハ  障害者職業センターで重度知的障害者と判定された者

●精神障害者精神障害者とは、法に規定される精神障害者をいう。具体的には次のイ又はロの者であって、症状が安定し、就労可能な状態の者をいう。
イ  精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者(発達障害のみにより交付を受けている者を除く)
ロ  イ以外の者であって、産業医、主治医等から統合失調症、そううつ病又はてんかんの診断を受けている者

週5日勤務、一律1011円の時給制

藤沢市資源循環協同組合(神奈川県藤沢市)は、産業廃棄物収集運搬会社23社が1989年に出資し設立した。現在、組合員社数は33。主に段ボールや新聞、飲料用紙パック、古布などの回収や選別などを行う。

組合が身体・知的・精神障害者の採用を始めたのは2013年のこと。当初は障害者施設から紹介を受けた5人を雇い、現在は18人(身体1人、知的12人、精神5人)で、101人の従業員のうち、約2割を占める。

当初から一貫して全員をパートとして雇い、週5日勤務(午前8時30分~午後3時、残業は原則なし)で、一律1011円の時給制。作業現場で班長の指導のもと、主にペットボトルのラベル剥ぎ、ラインに流れるペットボトルや缶、びんなどの選別、スプリングマットの解体をする。

知的障害者12人のうち10人は軽度で、班長が教えた作業を正しく理解し、時間内で終えることができるという。重度の2人は制限時間を考慮して動くことが難しいときがあるようだ。

藤沢市資源循環協同組合の野毛政利所長は、「軽度、中度問わず、業務の指示やふだんの会話をするうえでの返答は障害を感じないほどであり、私たちがコミュニケーションに困ることは少ない。この職場以外にも働く場はたくさんあると思うが、そのような企業はまだ少ないのかもしれない」と語る。

単純な仕事に黙々と丁寧に取り組む

知的障害者に指示をすると、ほとんどの人がそのまま受け入れるという。単純作業に黙々と取り組む傾向があり、集中力や持続力はとくに優れているようだ。

「作業のスピードは、健常者よりも概して速い。不満を言うこともほとんどない。こちらからマメに話して、丁寧に観察をしている。本人や施設との話し合いで、ほかの作業を担当してもらうこともある」(町田早美係長)スプリングマットの解体を行う知的障害者(写真:藤沢市資源循環協同組合)

作業は5人ほどでチームを組んで対応するケースが多い。知的障害者4人の中に精神障害者を1人入れると抵抗感を示す場合もあるので、班長たちは双方の配置に細心の注意を払う。ある精神障害者の社員は作業場や作業音に敏感だった。本人の希望もあり、1人でマットの解体作業をする担当にした。

全員が勤務態度はよく、勤勉だが、知的障害者と精神障害者の働き方にはやや異なる一面があるという。

「精神障害者の人は作業の仕方に強いこだわりがあるのかもしれない。妥協できない場合もあり、改善されるまで言い続けることもあったが、いかなるときも私たちは頭ごなしに否定はしない。話し合いを密にして、不満を可能限り取り除く。施設や家族とのコミュニケーションを深くして、安心して働くことができるように心がけている」(野毛氏)

「おはようございます。今日もよろしくお願いします!」――。ダイレクトメールの封入・発送を手がける株式会社キューピットワタナべ(東京都昭島市)本社の2階。午前10時、朝礼が始まる。

約20人の従業員の前で号令をかけるのは、重度の自閉症の男性(43歳)。1994年に特別支援学校を卒業後、入社し、26年間にわたり正社員として勤務する。

「決まり文句を発するのが、好きみたい。仕事についての会話をするのは難しい。ダイレクトメールの封入のような単純作業にはこだわりがあるようで、黙々と丁寧に取り組む。スピードは健常者の10分の1ほどの場合もあるが、集中力を持続させるところがすばらしい」(渡辺英憲社長)

親と会社だけでは障害者を守れない

単純作業をしているときにほかの作業をするように指示をされると、両手を動かし、抵抗する。不満な表情となり、トイレの中に入り、しばらくこもることもあったようだ。その場合は、数人でなだめていすに座らせる。男性は、画用紙と鉛筆を手にすると、五十音順や三日月から満月までの満ち欠けを描くことが多く、落ち着くと作業場に戻る。

自閉症の男性は与えられた作業に黙々と取り組む(写真:キューピットワタナべ)

渡辺道代会長は「(労働法を順守する以上、男性が)作業ができない間の時間にも、賃金を支払う。弊社のような小さな会社ではそれが繰り返されると難しい時期もあった」と26年間を振り返る。

同社は、福祉施設で障害者支援に携わっていた渡辺会長(当時は社長)が1987年に創業した。当初から身体・知的・精神障害者を雇い入れる。これまで15人以上を採用してきたが、ほとんどが本人や家族の事情や考えにより数年で退職。現在、正社員とパート社員を合わせた従業員は21人。うち障害者が1人のみで、それが前述の男性だ。

男性は、1人で電車とバスを乗り継いで30分ほどかけて出社する。遅刻や無断欠勤、早退はほとんどない。2016年までは週5日フルタイム勤務(午前9時~午後5時、残業はなし)だが、社長と両親との話し合いで週4日勤務にした。本人の肉体的な負担を減らすためだ。両親とは2カ月に1度は会い、男性の就労について意見を交わす。電話での連絡は頻繁に取り合う。

「(男性の)老化のスピードが健常者よりも速いように感じる。両親も70代となり、健康面の不安を抱える。国や自治体の高齢の保護者への支援策が十分とは思えない。親と会社だけで障害者の雇用や暮らしを守ることはもはや難しい」(渡辺社長)

NPO法人東京自立支援センター(東京都国立市)は障害者のための就労支援事業所で、2010年の設立時から特に就労継続支援A型に力を入れる。A型は、障害者総合支援法に定められた就労支援事業の1つだ。

就職が難しい障害者に一定の実習訓練を課し、採用者(合格者)に就労機会を提供し、仕事に関する知識や仕事の能力向上のための機会を設ける。2年ほど後に企業の就労へ結びつけ、自立できるように支援する。

健常者のレベルを超えるケースも

2019年12月現在、56人の障害者がA型の利用者として、同センターと契約する会社や工場で働く。主に次のような仕事をしている。おしぼりやフェイスタオル、バスタオルなどの包装および箱詰め、洗濯補助やおしぼりの荷積み、荷降ろし、ドアマット、モップの棚入れ、商品の入荷受け入れ、ピッキング、梱包・出荷作業、チラシの丁合、商品検査の作業など。

おしぼりの包装作業に従事する知的障害者(写真:NPO東京自立支援センター)

56人の内訳は、知的47人、精神4人、身体5人。特別支援学校などを卒業したが就労経験のない人や、就労したものの、何らかの事情で辞めてしまった人が多い。全員が、同センターと雇用契約型の最低賃金以上の労働契約を結ぶ。1カ月の賃金は週5日、1日6時間(午前9時~午後4時、残業なし)勤務で11万~15万円。

「知的障害者47人の障害程度は中軽度で、IQ 35ぐらいから70前後。理解力は幼稚園児から小学校高学年程度。単純作業は訓練しだいで、精度やスピードが健常者よりも上になる。健常者は1日800本ほどのおしぼりを包装するが、ある障害者は最初1日200本ほど。指導員や母親が教え込み、言葉では理解しにくいことは手本を見せて、本人にやらせてみた。今や健常者のレベルを超え、56人のうち、トップレベルになった」(髙森知理事長)

同センターA型の指導員は現在14人。指導員の力量が、利用者(障害者)の伸び幅になるという。経験豊富な指導員は、障害者との信頼関係を作るところから始める。「障害者は十人十色、百人百様。指導や対応は一律に決まったものはない」(髙森理事長)が、指導員らの共通認識だ。障害者の実情や実態を心得ることなく、1つの型にはめる指導は否定している。障害者からすると、刷り込まれた作業や間違った指導はすぐには抜けないのだという。

髙森理事長は「さまざまな特性があり、私の観察によるものでしかない」と前置きし、精神障害者の働き方について説明する。

「繊細な方が多く見受けられ、とくに自分に向けられる周囲の言動や雰囲気には非常に敏感。丁寧な対応と説明がないと、不安になることもあるようだ。発達障害と知的障害の重複の方は仕事や人間関係などに疑問を述べることが多く、少なくとも1週間に1回は面談を実施し、不満を話してもらう。安心して働いてもらえるように、われわれも気をつけている」

少数派の働き方を知る必要

紹介した3社の事例に共通しているのは、いずれもが経営者や役員、社員が障害者雇用に前々から関心を持ち、受け入れる意識が職場に浸透していたことだ。そのうえで障害者が働きやすい環境を段階的に整備してきた経緯がある。

しかも、障害者の家族や施設の支援者たちが企業で働くことに理解が深く、経営者や役員らと念入りな話し合いを長きにわたり続けている。筆者が取材を通じて観察していると、ここまできめ細かな支援態勢が出来上がっている職場は少ない。ある意味で、相当に恵まれた環境とも言えるのかもしれない。

「障害者雇用が過去最多」といった言葉の前で思考を停止することなく、さらに踏み込んで、少数派の働き方の実態を明らかにする必要があるのではないかと思えた。


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