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なぜ日本の学校は「発達障害の子」に冷たいのか 親の声「入らせたい小学校がない」

なぜ日本の学校は「発達障害の子」に冷たいのか 親の声「入らせたい小学校がない」

写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz※写真はイメージです

空気が読めない人は、なぜ空気が読めないのか――。発達障害児の子を持つド根性ママさんライターがありとあらゆる疑問に体当たり。発達障害は治るのか、治らないのか。発達障害は問題児なのか。それとも秘めたる才能を持つのか。世界を動かせる子に育てる方法。

発達障害が「才能」になる魔法の教育

2017年に福井県の中学校で、担任らの厳しい叱責に耐えかねた男子中学生が自殺した。生徒は他教師から発達障害の疑いを指摘され「発達障害に詳しい医師がメンバーに入っている調査委(員会)も、生徒について『真面目で努力家だが、対人関係が器用でない一面もあった』」(読売新聞)などとした。

生徒が課題の未提出を繰り返していたことも報道されている。愛知教育大学の「発達障害学生の理解と対応のためのミニブック(教員用)」によると「発達障害のある学生に見られやすい一般的な行動・特徴」の1つとして「提出期限や約束の時間を守れない、又は忘れてしまうことが多い」ことが挙げられる――。

発達障害児は勉強ができない子か

さて、筆者にも「自閉スペクトラム症」(ASD)と診断された息子がいる。3歳まで言葉が出ず、家族以外とはなかなか視線を合わさず、黙々と積み木を並べるひとり遊びが好きだ。4歳になる現在急速に話し始め、陽気なおふざけキャラに転身している。が、前述のニュースを見て親として息子の将来が漠然と心配になるときはある。ただASDといった発達障害は生まれついた脳機能の特徴で、病気のように治せるものではないが「障害」の2文字がひとり歩きしている感も否めない。

※写真はイメージです(Getty Images=写真)

たしかに独特のこだわりや感覚過敏などは周囲の理解や、環境整備が必要なことも多い。得意不得意なことの差も大きいので、得意分野を伸ばす傍ら、不得意部分では将来不自由しない程度に補う作業も必要だ。そのために児童精神科医や心理士、言語聴覚士、作業療法士らによる「療育」が存在しており、特に脳の発達が目覚ましい幼いころから遊びや運動を通じて働きかけをすることの重要性が謳われている。

だが、そんな幼少期の「療育」期を経た現在、ハタと我が家の目前に立ちはだかるのは、「入らせたい小学校がない」という現実の壁だった。

そもそも小学校入学はあらゆる子にとって大きな試練だ。ある日を境に突如45分間椅子に座り続け、興味のあるなしに関係なく先生の話を聞き続けなくてはならない試練。膨大な連絡事項に大量の宿題、さらにはお友達と仲良く過ごすことも求められる。まさに発達障害児にとっては苦手分野のオンパレード。こんな試練のなか、本人に過剰な負担を強いることなく、知的好奇心を伸ばせる学校はどこにあるのか。だが、通える公立学校の選択肢の少なさに、早くも心はぽっきり折れはじめている。

さて、発達障害児が公立小学校を希望する際、選択肢は主に4つある。

柘植雅義●筑波大学教授。博士(教育学)。

「発達に凸凹がある子は、オールマイティに教科がこなせない半面、ある分野で特異な才能や能力を持つことが多い」。

1.知的遅れがなく、特性も強すぎなければ、普通学級に進学する。
2.知的遅れはないが、情緒面や対人コミュニケーションに多少の問題がある場合は、普通学級に在籍しながら週に数時間「通級による指導」(通級指導教室、以下通級)で小集団・個別指導を受ける。
3.知的遅れや情緒面で集団生活が難しい場合は、小学校に併設された「特別支援学級」(以下支援学級)に在籍する。
4.知的遅れや身体的障害を伴う場合は、「特別支援学校」に通う。

支援教育は充実しているように思えるが、課題も多い。筑波大学の柘植雅義教授は3つ問題点を挙げる。

「まずは自治体で支援学級の設置にばらつきがあること。横浜市のように全公立小学校に支援学級がある地域もあれば、学区域校に支援学級がない場合もある。遠くの小学校まで親が送り迎えしなくてはならないなど、国が定めた『障害者差別解消法』に反する事態も発生しています」

▼公立小学校の支援の種類
現状では知的遅れが大きくない、通級と支援学級の間の“発達グレーゾーン”の子がこぼれ落ちてしまうことも……。


通級指導教室(通級)
普段は通常学級に在籍し授業を受けるが、週に数時間程度、個別や小集団でソーシャルスキルトレーニングなどの指導を受ける教室。


特別支援学級(支援学級)
一般校に設置された8人を上限とした個別支援学級。学校により、知的障害学級・言語障害学級・自閉症および情緒障害学級などがある。


特別支援学校
盲・ろう・知的障害など各種障害に応じて、学習面や生活面など総合的支援を行う学校。

さらに「支援学級」や「通級」で必ずしも専門家からのケアが受けられないという事実もある。専門性の高い素晴らしい教師もいるが、そういう先生に出会えるかは運次第。

「米国で特別支援教育に当たるのは、州によっては修士号取得者以上。『支援が必要』と認定された子どもにプロが教育に当たるのは基本です。ところが日本では小学校や中学校の教員免許を持っていれば誰もが支援学級の先生になれてしまう。国には発達障害の専門免許や、通級や支援学級の専門免許の創設を望みます」

発達グレーゾーン

現状の支援体制からこぼれ落ちる「発達グレーゾーン」の存在もある。知的遅れがなく特性も僅かだが、周囲の無理解から思春期以降、うつ病など二次障害に発展する子もいる。

四谷学院の森常務(左)と保護者向けの教材。落ち着いて座っていられない子はどうしたらいいか。発達障害児に対する「空手の型」のような助言が書かれている。

そんな公立校の問題を知るなかで、代々木ゼミナールが発達障害児支援教育に参入するという週刊誌ニュースが飛び込んできた。お受験予備校の老舗が本気で発達障害児教育に参入したら、これは公立校の不足部分を補える可能性もあるのではないか。そもそも少子化時代において、子どもの数は減る一方だが、発達障害児のニーズは増加の一途をたどる。既存の公的療育センターはパンク状態で、キャンセル待ちを望む列ができている。民間企業がこの分野に参戦すれば、親には選択肢が増え、企業にとってはビジネスチャンスになるのではと、さっそく取材を開始した。

代ゼミはこの案件についてコメントを控えるとの回答だった。しかし、同じく大手予備校である四谷学院から話を聞くことができた。四谷学院は、実は10年以上もの発達障害児向け通信教育の実績を持つ。その背景にはどんなストーリーがあるのか、森みさ常務取締役に尋ねた。

「実は発達障害という言葉を知る以前から、私たちスタッフの間ではある疑問があったんです。難関大学に合格するほどなのに、奇妙なこだわりやちょっとしたことでパニックになってしまう受験生が常に一定数いるのはなぜなのか。ずば抜けた秀才がエレベーターのボタンをすべて押さなくては気がすまなかったり、有名大学進学後、周囲とのトラブルで引きこもりになってしまったり。彼らをどう理解し、どんな支援をしてくればよかったのか、そんな問題意識が出発点になっています」

四谷学院は、自閉症児の教育に専門的な知見を持つ私立武蔵野東学園と組み、教材開発や相談事業を行っている。19年からは新たに、教師や保育士、保護者のニーズに応える形で、独自の「発達障害児支援士」資格認定講座も立ち上げた。

だが、肝心の市場そのものの可能性について尋ねると「正直、予備校部門という本丸あってこそ可能」だともいう。「ほかの学習塾や予備校では講師1人に対して生徒100名といった大規模授業が展開できますが、こと発達障害に関しては個別指導や小集団授業が大前提。独自の教材開発にも莫大な時間とコストがかかり、回収には時間がかかります。事業採算は最優先ではありません」。

それでも社会的ニーズが高く、教育に関わる企業として大切な分野であるとの思いが、このプロジェクトにつながっていると語る。

強みを伸ばす教育の必要性

柘植教授は取材のなかで発達障害児の弱みを補うだけでなく、強みを伸ばす教育の必要性も言及している。

「日本の発達障害支援は、学習面や行動面で困難を示す子の救済の意識が強いですが、海外では『2E(twice-exceptional)教育』の考えが一般的です。訳すと『二重の特別支援』。天才を表す『ギフテッド』とも似ていますが、発達に凸凹がある子は、オールマイティに教科がこなせない半面、ある分野で特異な才能や能力を持つことが多い。

米コロラド州立大学テンプル・グランディン教授は、自らの自閉症の特性を生かし、(※)非虐待的な家畜施設の設計者として世界的に有名になりました。ビジネス分野でも発達障害傾向の起業家は多いです。それに気づいた海外では特性を持つ子を積極的に集めて、英才教育プロジェクトもスタートさせています」

そんなポジティブな側面からの教育を介しているのは、急成長を続ける日本企業、LITALICOだ。

LITALICOが開催する「ワンダーメイクフェス」の様子。発達障害児らが、学習成果を発表する。発表方法もプレゼンやブースなど人それぞれ。発表後は観客が「ナイスアイデア」「ナイスユニーク」など紙を掲げてフィードバックする。会場には1万人ほどが集まる。

幼児や学齢期サポートを行う「LITALICOジュニア」、就労支援の「LITALICOワークス」、発達障害情報サイトなど、発達障害者を多角的にサポートする事業展開で存在感を放つ同社は、独自の「研究所」も持つ。大学の専門機関と公立学校からの教員研修として実習も受け入れるなか、IT×ものづくり教室として14年から開始したのが「LITALICOワンダー」だ。

事業部長の毛利優介氏によると、最初は単発プログラムからスタートしたという。「独自のこだわりや興味の範囲が限定されがちなお子さんに、興味の幅をひろげてもらいたいとキャンプや陸上、料理などの単発教室を試みるなか、特に可能性を感じたのがプログラミング教育でした。普段は10分と座れない子が3時間ぶっ通しで熱中したり、場面緘黙で一切喋らない子が、一生懸命自分の作品を示したり、明らかに発達障害の子にも向いている分野だと実感したんです」。

1人で黙々と作業できること、視覚情報操作であること、パターンを見いだしスモールステップで成果が表れることなど、プログラミングは発達障害との相性が良い。

現在は一般児童向けプログラミング教室として人気を博しているが、3割は発達障害児やグレーゾーン、不登校などの経験がある児童であり、年1回の「ワンダーメイクフェス」は1万人を超すイベントに成長した。

毛利氏は、「障害とは結局、社会に個性がフィットするかどうかの問題なんです」と語る。その意味ではITやAI分野の発展が期待される「ソサエティ5.0」時代や、いま話題の「STEM教育」(科学・技術・工学・数学)分野において、才能や適性を発揮できる発達障害児は増えていくのかもしれない。

発達障害児に対するサービス

一方で民間分野の課題もある。「儲かるから」という目的だけで、専門家の知見を取り入れずトラブルに発展するケースもあるからだ。12年に児童福祉法が改正され、発達障害児に対するサービスの量的緩和が図られた結果、特に学齢期の子たちの放課後預かりを目的とした「放課後等デイサービス」事業所数が激増したが「療育」とは程遠いお粗末な施設も存在するようになってしまった。

鹿野佑介●ウェルモ社長。発達障害児施設を現在8施設展開しているが、3年間で32施設に拡大する計画だ。「発達障害関連の事業は莫大な利益は生み出せないが、需要は安定している」。

福岡を中心に発達障害児支援事業「UNICO」を開始したウェルモの鹿野佑介社長はこの分野における質の改善を政府に提言している。「現状では受け入れる児童数に対する職員の数や施設の面積数など、設備面がクリアしていれば開設可能です。今後はぜひ専門的な療育を行う施設としての質もポイントとして評価してほしいと求めています」。

親も無数に存在する施設を選ぶ際の基準がわからず、長時間の預かりが可能か、車の送迎があるかなど目先のサービスを優先しがちだ。

公立学校、民間塾それぞれの可能性と課題が見えてきたが、最後に改めて提言したいのは、やはり公立学校における制度の見直しだ。

発達障害児を持つ家庭のすべてが、子どもの療育に時間と労力、資力を費やせるわけではない。選択肢が豊富な都心部の一部の「意識高い系」家庭のみが、上質な療育を子に受けさせられる構図は改善されていくべきだろう。発達障害は放置すれば、学級崩壊や不登校などの二次障害につながる。本来「障害」でないはずの子どもを障害者にせずその子の特性が人生を明るく彩るような教育を選べるよう、家庭と教育機関、民間多方面からの改善を期待したい。

▼「枚挙にいとまがない」発達障害傾向の偉人たち

古今東西、“発達障害”の傾向を持つ偉人は枚挙にいとまがない。科学の分野においてはエジソンやアインシュタイン、音楽ではモーツァルトやフレディ・マーキュリー、美術ではゴッホやミケランジェロ、作家のジェームズ・ジョイスや芥川龍之介などはそのほんの一例だ。もちろん現代の精神科医が直接診察することができない以上、正確な診断を下すことはできない。

現代物理学の父、アルベルト・アインシュタイン(左)は5歳ごろまでしゃべれなかったという。フレディ・マーキュリーも発達障害傾向といわれている。(時事通信フォト=写真)

だが日記や書簡、同時代人の回想などからは、彼らの色濃い特性が浮かび上がってくる。近年ではアップルのスティーブ・ジョブズやマイクロソフトのビル・ゲイツ、ハリウッドではトム・クルーズやスティーブン・スピルバーグ、日本でも俳優の栗原類さんや歌手の米津玄師さんなどが、それぞれの診断名や特性についてカミングアウトしている。

彼らの人生から学べることは何だろう。彼らは決して“秀才”ではなかった。少なくとも多くの学校や家庭で望まれるような「素直でお友達が多く、運動も勉強も得意な良い子」ではなかった。むしろ得意・不得意の凸凹が激しいからこそ、「これ」と定めた分野に集中できたし、場の空気を読み周囲を忖度しないからこそ、常識破りの創作や研究、起業を可能としたともいえる。

もちろん「発達障害=天才」という論理は成り立たない。だが、彼らの一見型破りとも思える人生を紐解くことで学べることも多いはずだ。

▼発達障害児が混ざっても問題がない北欧の学校

日本の学校での支援教育はまだまだ

北欧やアメリカなど海外の学校視察を通じて痛感するのは、日本の学校での支援教育はまだまだだということです。

今日学校でやるべきことの順序が休憩時間なども含めて示されている。「欧米では一般のクラスでも視覚的な支援がある」。

発達障害に関してはすでに研究も進み、どのような支援や教育方法がふさわしいかエビデンスもそろってきていますが教育現場に反映されない場合も多く、専門知識を持たない教師による「長年の経験」頼みな現状も多いのが残念なところです。例えばADHDの子はソワソワと動き回り、注意も散漫で衝動性が強い特性があるので、周囲の壁には掲示物をベタベタ貼らない、同級生の動きが見えにくい前列の席に配置するなどの工夫をすることができます。

あるいはASDの場合、人との接触が苦手で、実は私もその傾向があるのですが、騒音が渦巻く40人学級(1年生は35人上限)自体、耐えがたい空間になるのです。黒板の文字や教科書を眺めながら板書をするのが苦手でも、タブレットを使ってなら可能なお子さんもいます。そういった基本的な配慮がいまだ日本では一般的ではありません。

この夏、北欧視察に行った際、現地では通常学級の定員が20人で、それ以上増えたら2つの学級に分けます。そのうえ子どものニーズに応じて必ず補助教員がつくことに感動しました。反対に海外の専門家が日本の学校を見学して驚くのは「なぜ視覚支援がないか」ということです。発達障害の子は将来の見通しがつかないことに強い不安を抱きやすく、口頭での指示が短期記憶に残りにくいなどの問題も抱えています。

しかし、その場合でも、文字や絵や写真など視覚情報を使えばきちんと理解し記憶できる。ここに載せた写真を見ると休憩時間を含めた予定がわかりやすく示されています。これは支援学級の取り組みではなく、通常学級の教室です。発達障害児に対する特別支援以前に定型発達の子に対しても十分過ごしやすい工夫が凝らされています。

大人だっていまの時代、スマホアプリやグーグルサービスで予定を視覚的に管理し、LINEなどで仕事の案件を連絡し合いますよね。誰も重要事項を口頭だけで伝えようとなんてしていない。学校現場だけが、いまだに口頭伝達を重視しています。

特別支援を行うのに、必ずしも高価な設備や教材は必要ではないんです。基本的な知見を取り入れ、あとは各校に発達障害の専門家を巡回させる。これだけで学校内のさまざまな問題は解決するのではないでしょうか。

▼3種の発達障害は重なり合う!


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