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“過労うつ”も対象内「障害年金」の使い方失業給付と重ねて受給もできる

“過労うつ”も対象内「障害年金」の使い方失業給付と重ねて受給もできる

病気やケガで働けなくなったときに、頼りになる制度のひとつが「障害年金」だ。最近では、過労によるうつ病で、障害年金が受給できるケースも増えているという。障害年金の請求代理を専門とする社会保険労務士が、もしもの時の手だてを解説する。

鈴木愛美さん(仮名、42歳)からの電話相談

IT関連会社に1998年に入社して、プログラマーとして働いていた鈴木愛美(仮名、42歳)さんは、30歳頃から、毎日の深夜までの残業と上司からの激しい叱責も重なって、気持ちが沈むことが多くなった。不眠が続き、言い知れぬ不安感と死にたいという気持ちが消せなくなってしまう。

2006年に心療内科に行き、うつ病と診断され、会社を休むように言われた。その日から1年5カ月休職。このとき傷病手当金をもらっている。その後、2カ月のリハビリ勤務を経て、復職して1年働き、また1年数カ月休職した。その後も3回の長期休職を繰り返した。

鈴木さんはシングルマザーで、高校1年生と中学生2年生の子供がいる。そのため何としても収入が必要だった。しかし、10年以上治療を続けても、病状に大きな改善はみられなかった。そして、相談の3カ月前からうつ状態が再度悪化。休職期間も限度になっている、これでは仕事が続けられない。そう判断して退職することにした。今はしばらく休んで、病状が少し上向けば、時間をかけてじっくりと障害者雇用での就労先を探そう。そう考えているという――。

さて、こうしたケースで障害年金は受給できるだろうか。結論を先にいえば、月14万~16万円の障害年金を受給することができる。

子どもがいると加算になる

このようなケースは、私が受ける相談でもかなり多い。とくに、プログラマーやSEなどコンピューター関連の職場でとても多い印象だ。超過労働が常態化している職場では、うつ病を発症する人が少なくない。こういうときにこそ、心強いのが障害年金という制度だ。鈴木さんの場合は、「障害厚生年金」がもらえる可能性が高いケースといえる。

医師の診断書内容にもよるが、現状では仕事ができないため、支給級数は「2級」となるだろう。級数の仕組みについては、後に触れる。正社員として働いていたということ、そして子どもがいると障害年金は加算になるため、2人の子の加算を含めると、月14万~16万円となる。

さらに、最初に病院に行った日から1年6カ月の時点では、リハビリ勤務で半日の就労だったので、3級と認定される可能性があり、さかのぼって最大5年分がまとめて支給される。3級の場合、1年間の最低保証額は58万4500円なので、5年間であれば約300万円の支給が受けられるはずだ。このくらいのまとまった資金があれば、現状の2級の年金とあわせて、しばらくは治療に専念し、その後、状態が上向いてから仕事を探すことができる。

これまでの説明を読んで、「わかりづらい」と思う方もいるだろう。実際、障害年金はかなり「わかりづらい」制度であり、それぞれの障害の具合や、医師の診断によって、もらえる金額が複雑に変わる。だから専門家による助けが必要となるわけだが、専門家を頼る前に、個人として知っておくべきことも多々ある。そのひとつが、障害年金をもらうための「条件」だ。

障害年金をもらえる条件

障害年金をもらうための条件は、以下の3つにまとめられる。

(1)その病気やケガで最初に病院に行った日(初診日)に年金に加入していること。どの種類の年金に加入しているが決め手になる。厚生年金に加入していれば障害厚生年金が、そうでない場合は国民年金の障害基礎年金が支給される。この2つを比べると、障害厚生年金のほうが受給額は高くなりやすい。障害基礎年金は2級までなのに対して、障害厚生年金は3級まであり、1級と2級の場合は障害基礎年金だけの場合に比べて金額が高くなるからだ。

(2)初診日の前日の時点で、全ての年金加入期間のうち3分の1以上の滞納がないか、直近1年間に滞納がないかのどちらかを満たしていること。

(3)障害の程度が、障害年金支給程度以上であること。障害厚生年金は3級以上、障害基礎年金は2級以上でなければもらえない。おおまかにいうと、1級は全介護状態、2級とは仕事ができず家事もままならない状態で、3級は仕事に大きな支障が出ている状態である。

請求の流れと結果

ここから鈴木さんのケースに戻って、障害年金の請求から支給のプロセスを見ていきたい。

鈴木さんは、うつ症状があり、障害年金請求は一人では難しいと悩んでいた。そこで、私は代理請求を受任して障害年金を請求するかたちをとった。どんなケースでも、まずは面談を行う。2~3時間をかけて、これまでの経過と現在の生活上の困難をヒアリングする。それとともに、これまでの休職期間や勤怠状況の証明書を会社から取り寄せ、「病歴就労状況等申立書」という書類を作成する。この書類があると、医師の診断書作成がスムーズにすすむ。

鈴木さんのケースのように、さかのぼって請求する場合は、「初診日から1年半の時点の診断書」と「現状の診断書」の2つの診断書を依頼する。診断書ができあがったら、診断書の内容に不備や記載漏れがないかを確認したうえで、年金事務所に年金請求書、住民票や戸籍などの必要書類とともに提出する。

請求後、3カ月半で結果が届く。鈴木さんの場合は、私が想定していたとおり、初診日から1年半の時点では3級、現状では2級と認められ、その1カ月後、さかのぼって300万円が入金された。

鈴木さんの場合は、はっきり言って最高の形で受給ができた。たとえば、初診日から1年半の時点でたまたま復職した時にフルタイムで仕事ができていたような場合には、「さかのぼり受給」が認められないこともある。ただ、その場合でも、少なくとも現状で仕事ができない状態であれば、医師の診断書の評価によって、仕事ができなかった期間に応じて3級はもちろん、2級と認められる可能性がある。

もらった後に気をつけること

鈴木さんの場合、仕事を探せるまで回復したら、雇用保険からの失業給付も受けられる。あまり知られていないが、障害年金と失業給付は、重ねて受給することができる。また、失業給付は障害者手帳を持っている場合、1年近く受給できる。さらに鈴木さんは「障害者雇用で働きたい」という意思があったが、もし障害者雇用で仕事が決まって働き出しても、診断書により「労働に支障が出ている状態」と認められれば、フルタイムで仕事をしながら、障害厚生年金3級を受給しつづけることができる。

もうひとつ、障害年金は、多くの場合で、数年に一度診断書を再度提出して、再認定を受ける必要があることも知っておこう。だいたい1~5年の範囲で診断書を提出する。そのときの認定により等級が変わったり、支給停止になったりすることがある。

不服申立てのススメ

障害年金では、明らかに誤りであるとしか思えない認定が普通にある。また、同じ診断書でも2級となったり、3級となったりする。請求が数十年後になってしまい、初診日のカルテが廃棄されている場合は、初診日を証明することも難しくなる。そうなると初診日が特定できないとされ、障害年金がもらえないことも多い。

そのような場合には、「不服申立て」をすることができる。その結果、国が誤りを認めて、不支給決定が取り消されたり、不服申立てが正式に認められたりすることが、私の経験上からも一定数はある。不服申立ては二審制で、社会保険関係については二審目の結果、23%が認められている(2015年度)。黙っていては損をする――それが障害年金だ。

障害年金は「保険」制度

今回は、うつ病の事例を紹介したが、障害年金は原則としてすべての病気やケガをカバーしている。脳卒中、リウマチ、がん、難病、腎臓、肝臓、呼吸器、心臓、人工関節置換、人工肛門造設などでも、障害年金が支給される。また「発達障害」のようなケースでも、就業が困難であると証明できれば受給の対象になる。

障害年金は、「社会保険」の最も典型的なものだ。誰でも、明日には障害を持つかもしれない。それにより仕事を失ったり、収入が途絶えてしまったりすることに対して、みんなで助け合う仕組みだ。もちろん保険料を払っていなければ受給資格はないので、後ろめたい気持ちをもつ必要はない。

障害年金は国の広報不足で、その名前すら知らない国民が3割以上いる。医師も病院も役所も、なかなか教えてくれない。どの程度の障害で障害年金が支給されるのかが曖昧だし、制度が複雑で、行政の窓口でも間違った説明がなされることもとても多い。自分や家族でできるだけ調べてみること。そして、それでも難しいと思ったら、専門の社労士などに相談することだ。

誰もが使う可能性がある

障害年金を知っていても、幼い頃から障害がある人だけに対する給付だというイメージが強いかもしれない。でも、「社会保険」である障害年金の対象はもっと広い。今は障害がない人も、事故や病気など、障害を持つことになる可能性は誰でもあるのだから、障害年金があることはぜひ知っておきたい。

社会全体で助け合って、障害となった人の生活を支えていくそれが、いざというときの安心になる。その安心は一人だけではなく、みんなをつなげ、社会へと広がっていく。障害年金は社会が生きやすいものとなるための大事なツールなのだ。

安部敬太(あべ・けいた)
1960年生まれ。安部敬太社会保険労務士事務所代表。社労士として、障害年金の請求、障害年金不支給の不服申し立てを専門とし、これまでに1000件を超える代理請求をこなす。『障害年金 審査請求・再審査請求事例集』『新訂版 詳解 障害年金相談ハンドブック』(いずれも共著)など執筆も行っている。


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