コロナ禍で人手不足に拍車がかかるトラック業界で、他業種からの転職希望者が増えている。元トラックドライバーの橋本愛喜さんは「『底辺職』とされていた仕事に注目が集まっているのは歓迎だが、現場のトラックドライバーたちが手放しでは喜べない事情がある」という——。
写真=iStock.com/1933bkk※写真はイメージです
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デマによる買いだめや買い占め、さらには外出自粛要請や休校・休業要請、緊急事態宣言で人々が巣ごもりするようになり、物流の混乱は急激かつ深刻さを増している。
一般社団法人全国スーパーマーケット協会が発表した2020年3月期の販売統計調査(速報値)によると、スーパーマーケットの総売上高は前年同月比の8.8%増。日々スーパーに生活必需品を降ろすトラックドライバーたちからは、
「スーパーの配送トラック運転手は疲弊している。もう勘弁してくれ。毎日毎日盆暮れ並みの物量」「最近の物量の多さと連続する雨のせいでもういっそコロナになって休んだほうが楽なんじゃないかと思うようになってきた」
といった悲痛な声が聞こえてくる。
宅配を担う配達員の疲弊もすさまじい。
「外出自粛要請で逼迫していたが、そこにやってきたゴールデンウイークで物量に殺された」
「どうせ巣ごもりで家にいるんだから、時間帯指定するの本当にやめてほしい」
筆者の自宅に配達にやって来る大手運送会社の配達員は、「荷物量は普段の2倍」と話していた。もっと何か言いたげな表情だったが、その気持ちとは裏腹に、体はすでに次の配達先へ向いていた。
こうした中で、運送業界にはある現象が起きている。他業種からの転職希望者の増加だ。コロナ禍で失業した人たちが、「トラックドライバーにでもなろう」と転身する動きがみられるのだ。
私が聞いた話では、免許取得支援制度のある求人に未経験応募者の列ができたり、まだ募集をかけていないのに「近所に住んでいるから」という理由で問い合わせの電話がかかってきたケースがあるという。
かねてトラックドライバーは「底辺職だ」や、「あんな仕事なんてやりたくない」などと言われてきた。
しかし、このコロナ禍では、SNS上で「日本の物流を支えてくれてありがとう」、「自分たちが普段通りに生活できるのはドライバーのおかげ」といった言葉もみられるようになった。
写真提供=橋本愛喜コンビニに掲げられたメッセージ
「激忙」かもしれないが、社会のためになる仕事なら頑張ってみよう。そう考える人が増えているのかもしれない。
ただし、運送の現場では、「新人の急増」を素直に喜べない3つの事情がある。
①「運送企業全てが忙しい」という誤解
運送企業が総じて忙しいと思ったら実はそうではない。
物量が減り、現役のトラックドライバーでさえも仕事がないという声は多く、中には「平日でも2日しか仕事に出ていない」「(洗車する時間がたっぷりある)おかげで最近トラックが毎日ピカピカ」というケースもある。
運送企業は会社ごとに運ぶ物が異なる。木材や砂利を運ぶ会社もあれば、食料品やトイレットペーパーを運ぶ会社もある。そのため、コロナ禍で繁忙を極めているのは、生活必需品や戸別配送を行う配送企業ということになるわけだ。
全日本トラック協会の「日本のトラック輸送産業現状と課題2018」によると、平成28年度の「消費関連貨物」は全体の32%程度。現在物量が激増している食料品やトイレットペーパーなどの「生活必需品」は、ここからさらに絞られる。
また、この「消費関連貨物」以外の輸送においては、木材や砂利、廃棄物などの「建設関連貨物」が37.3%、そして、製造現場で使用する金属、機械、石油などの「生産関連貨物」が30.4%を占める。
周知のとおり、コロナで経済活動は著しく鈍化。生活必需品以外の輸送に携わるトラックはそれに引っ張られるように物量が減り、ドライバーの仕事も薄くなっているのが現状なのである。
②繁忙期は新人が「お荷物」になってしまう
一方、コロナ禍で繁忙を極める現場のトラックドライバーからは「こんな忙しい時に新人を入れないでほしい」とする声が大きい。
ブルーカラーの世界では、それまで全く予想だにしなかった閑散期と繁忙期が突如としてやってくることが多々ある。とりわけこうした有事の際に大きな製造ラインが止まったり、デマや不安心理から買いだめ買い占めが生じ突然量産せねばならなくなったりすると、裾野が広い分その影響は甚大だ。
そんなブルーカラーの仕事は、作業工程を理解すればすぐにできるというものではない。それに加え、「身体的技術習得」が必要になる。
新人トラックドライバーの場合、それらの習得のために研修期間中はベテランドライバーの助手席に乗る。いわゆる「横乗り」だ。
走るルートや現場ごとにある細かなルール、荷積み・降ろしのコツなどを文字通り体で覚えるのだが、その一方、繁忙期のピークに彼らの教育係となるとベテランは仕事にならならず、時にその新人がトラックの中で一番の「お荷物」になってしまうことも少なくない。
だからといって閑散期に雇うと、今度は物量の少なさから実習にならなかったり、業界に不安を覚えて辞めていったり、繁忙期になった時に「こんなはずじゃなかった」と不満を漏らす人も出てくる。
ブルーカラー雇用のタイミングは、ホワイトカラーよりも難しいのだ。
③過酷な労働状況を甘く見ている
トラックドライバーという職は、世間が思う以上に技術と体力を要する、いわば「肉体系職人業」だ。
彼らの業務は「運転」だけではなく、前出の通り、荷物の積み降ろしなどのオマケ仕事を強いられている実態があるのだが、この積み荷を荷崩れせぬようバランスよく積むことは、それほど簡単なものではない。
中でも難儀なのが「手積み・手降ろし」だ。
荷物の積み降ろし時、トラックドライバーはフォークリフトを使う以外に、一つひとつ手で積み降ろしさせられることがよくある。フォークリフトを使用すると、パレット(荷物を載せる板)とパレットの間に隙間(=空間)が生じてしまうからだ。繁忙期や満載時は、この隙間が惜しくなる。
その手積み・降ろし作業の過酷さは想像を絶する。
「30キロの米袋を800個」「スイカ2個入り(約20キロ)を900個」「便器45キロ50台」。時間に余裕もないので、もたもたしている暇もない。
そんな現状を知ってか知らずか、世間から聞こえてくるのは「トラックドライバー“にでも”なろう」という声だ。実際コロナ禍以降のSNSには
「こんな稼げない状態が3年5年と続くようならいっそ大型免許取ってトラックに転職しようか最近少し考えてる」「飲食店で失業してもEC扱ってる物流倉庫の作業員や運び屋の需要は旺盛だろうしそっちにシフトした方が儲かりそう」
などという書き込みが見られるが、筆者を含め現役のトラックドライバーたちは、こうした気持ちを引っ提げ入社し、3日と持たずに辞めていく新人をこれまで数え切れないほど見てきている。
余談になるが、時折テレビのドキュメンタリーなどでも、野球選手が戦力外通告や怪我などで現役を引退し、「第二の人生」としてトラックドライバーに転身した様子を「○○選手トラックドライバーに転身の転落人生」などとセンセーショナルに紹介することがあるが、トラックドライバーという職は、決して転落した先でする仕事ではない。むしろ、野球選手ほどの精神力と体力がないと務まらない職業なのだ。
先月、トラックドライバーたちにとって非常に大きな出来事があった。ガソリンスタンドのシャワールームの利用停止だ。
実は大手ガソリンスタンドには、トラックドライバーのためにシャワールームを開放している店舗が日本各地にあるのだが、4月中旬に感染拡大防止対策として同所が次々に閉鎖された。
これに対し、一度家を出たら1週間以上帰れないことも多い長距離トラックドライバーたちから早期再開を求める声が多く集まり、結果的に1週間程度で閉鎖は順次解除されたのだが、今回ドライバーに「その間どのように過ごしていたのか」と聞いたところ、「公園の障がい者用トイレで頭を洗った」「コンビニのお湯を拝借して体を拭いた」「ガソリンスタンドの洗車用の水を使った」といった驚愕の状況が次々と報告されてきた。
が、何より驚いたのは、当の本人たちの口調だ。これらのエピソードを、彼らはまるで武勇伝のように笑いながら語る。
「洗車用の水、飲んじゃダメな水(笑)」
「歯も磨いたことあるけど……飲んでるかもしれません(笑)」
「消臭のために『ファブリーズ』を自分に振りかけていたが、『トイレその後に』を振りかけてた人がいて負けた気がしました(笑)」
「赤ちゃんのお尻拭きシートのコスパが最高だと聞いて実際体拭いてみたら最高でした! 純水99%。アトピー持ちには助かります」
こうしてドライバー同士あっけらかんとその境遇を笑い合う根性と、仕事に対する愛を見た時、彼らにとってトラックドライバーという職は「底辺職」ではなくむしろ「天職」なのだと再認識したと同時に、“にでも”な転職組には務まらないなと改めて思うのだった。
橋本 愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化祭、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆や講演を行う。
2025年3月頃オープンの就労継続支援B型(さいたま市与野)の業務やカリキュラムを更新・公開しています。
— ㈱Prevision-Consulting (@previsioninfo) November 3, 2024
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