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大人の発達障害が疑われる人が持つ脳の特徴 意識して鍛える方法はある

脳の専門家がメカニズムを解説します(写真:taa / PIXTA)

主な発達障害は「自閉症」「高機能自閉症」「学習障害(LD)」「注意欠陥/多動性障害(ADHD)」「アスペルガー症候群」などが挙げられます。いずれの症状も基本的には、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定されています(文部科学省HPより)。

発達障害は、いまや子どもだけの問題ではありません。知的発達には問題のない大人でも、社会の中で生きる困難さを体験してからようやく、「自分は発達障害かもしれない」と疑いを持つケースがあります。

一方で、大人の発達障害の症状は、人と目を合わせにくくなったり、朝寝坊しやすかったりなど、健常者でもあり得る症状を示すことがあるため、医師でも診断が困難な場合が多く認められます。さらに、外来では症状に気づきにくいことから、明確に診断できる医師は少なく、また診断や投薬の指示ができたとしても、一人ひとり異なる症状に対して、なぜそうなっているか、どうすれば悩みが解決するか、説明してくれるところはほとんどないのが現状です。

私はMRI(磁気共鳴画像)という技術を使って、1万人以上の脳画像を分析してきた結果、発達障害が疑われる代表的な脳の特徴を発見し「海馬回旋遅滞症」と名づけ、子どもだけでなく大人の発達障害の支援を行ってきました。本稿では、拙著『アタマがみるみるシャープになる!脳の強化書』から、この「海馬」のメカニズムをご紹介し、具体的な対処法をまとめてみたいと思います。

原因は海馬とその周囲の発達の遅れ

何度同じことをやっても身に付かない。人との交流が深く発展しない。自分の感情がコントロールしにくい。すぐに一方的に怒ってしまう。周囲の環境になじめない。不器用。タイムマネジメントができない。記憶力に不安がある。自分には心当たりがないのに上司や家族から責められる……。発達障害が疑われる人の症状はさまざまですが、その主な原因は、脳の中にある海馬の発達の遅れ「海馬回旋遅滞症」にあると考えられます。発達障害はコミュニケーション障害に知的障害を合併することから、海馬とその周囲の成長発達の問題と仮説を立てられるからです。

脳の記憶をつかさどる部位である海馬は、胎児のときから、回転しながら発達しており、右の海馬のほうが、左の海馬よりも少し速く発達することがわかっています。このとき、左の海馬の発達のスピードが極端に遅れることがあり、この遅れが、さまざまな脳の発達障害や、性格の特徴、コミュニケーション障害などを生み出していると考えられます。

現在、「海馬回旋遅滞症」はMRIによる脳画像で比較的簡便に診断することができるようになりました。このとき、大切なのは「今の自分の脳がどういう状態にあるのか」を知り、そのうえで、「これからどうすればいいのか」対策を立てることです。

具体的には、脳の中の海馬というわずか5センチの器官が未発達だったとしても、その周辺の脳を成長させていくことが、私は、この「海馬回旋遅滞症」をカバーする非常に有効なアプローチだと考えています。

海馬に直接影響を及ぼす感情系脳番地とは

脳には、1000億を超える神経細胞がありますが、これらは同じ働きをする細胞同士で「基地」をつくっています。この基地と、そこに集まっている脳細胞のことを、私は「脳番地」と呼び、大きく次の8つに分類をしています。

①思考系脳番地――人が何かを考えるときに深く関係する脳番地
②感情系脳番地――喜怒哀楽などの感情を表現するのに関与する脳番地
③伝達系脳番地――コミュニケーションを通じて意思疎通を行う脳番地
④理解系脳番地――与えられた情報を理解し、将来に役立てる脳番地
⑤運動系脳番地――体を動かすこと全般に関係する脳番地
⑥聴覚系脳番地――耳で聞いたことを脳に集積させる脳番地
⑦視覚系脳番地――目で見たことを脳に集積させる脳番地
⑧記憶系脳番地――情報を蓄積させ、その情報を使いこなす脳番地

このなかで、海馬が所属するのが⑧の「記憶系脳番地」であり、この部位と密接にかかわるのが、②の「感情系脳番地」です。「感情系脳番地」は、脳の側頭葉にあり、「記憶系脳番地」のすぐ前方に位置します。感情を大きく揺さぶられた出来事が記憶に残るように、この「感情系脳番地」の影響は、「記憶系脳番地」にダイレクトに作用します。そのため、感情のコントロールを強化することで、海馬にプラスの影響を与えることができます。

「感情系脳番地」を鍛えるトレーニングには、「過去の楽しかった思い出のベスト10を挙げる」「まわりの人にその人の印象を伝える」「自分で自分をほめるノートをつける」などがあります。

海馬が弱ったら思考系脳番地を鍛える

また、海馬が萎縮して正常に働かなくなると、そのサインとして「記憶力」の低下が見られます。このとき、萎縮して正常に働かなくなっている海馬に対して、無理に「これを覚えなさい」と命令を出したところで、あまり効果的ではありません。『アタマがみるみるシャープになる!脳の強化書』(あさ出版)。

このとき、有効なのは思考力、すなわち「思考系脳番地」を鍛えることです。たとえば、他の人とコミュニケーションを図るなどして情報交換の機会を増やし、思考力を強化すると、記憶力を低下させていた海馬の働きも回復していきます。

他にも「思考系脳番地」を鍛えるものには、「1日の目標を20字以内でつくる」「じゃんけんや囲碁、将棋などでわざと負ける」「寝る前に必ず3つのことを記録する」といったトレーニングがあります。

このように海馬とつながったさまざまな脳番地を強化することで、海馬の弱点をカバーできると同時に、海馬自体にもプラスの影響を及ぼすことができます。そして、自分の長所と短所を把握し、その周辺の脳番地を意識して鍛えることは、「海馬回旋遅滞症」の対処に限ったことではなく、脳を成長させるうえで、非常に重要なポイントなのです。

以上


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