子どもの能力を引き出すためには?(写真:YUMIK/PIXTA)
グーグルの創業者であるラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ。彼らに共通するのはみなモンテッソーリ教育を受けていたということだ。
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イタリア人医師マリア・モンテッソーリが重度の発達障害のある子どもたちを世話するなかで、子どもたちには自分自身を教育する力が備わっていることを発見し、1907年にローマの貧民街で「子どもの家」という幼児教育施設を開いたのがモンテッソーリ教育の起源。
ほかに、オバマ大統領、クリントン夫妻、イギリス王室のウィリアム王子とヘンリー王子、経済学者のピーター・ドラッカーなどもモンテッソーリ教育を受けたといわれている。日本では将棋の藤井聡太さんがモンテッソーリ教育の幼稚園出身であることが話題になったのは記憶に新しい。
モンテッソーリの幼稚園では、子どもたちは「おしごと」と呼ばれるなんらかの作業を自ら選んでもくもくとこなす。スタンプを押すおしごと、縫い物をするおしごと、数を数えるお仕事など、さまざまなおしごとのなかから、子どもたちがその日の気分で好きなものを選んで取り組む。
モンテッソーリの幼稚園では、子どもたちが好きな教具を自由に選び、遊びながら学ぶ(協力:公益財団法人 才能開発教育研究財団 日本モンテッソーリ教育綜合研究所 附属「子どもの家」)
大人から指示されなくても、子どもは自分自身を教育するために必要なおしごとを自分で選ぶことができて、ちょうどよいおしごとに出会うと深く集中できる。先生はほとんど教えない。困ったときには大人がお手本を示すことで、”1人でできるように”手伝う。
おしごとを通じて「言語」「秩序」「運動」「感覚」「数」「文化」の各分野について自然に集中して学ぶチャンスの到来は6歳までに集中していると、モンテッソーリ教育では考えられている。
モンテッソーリ教育と並んで世界的に有名なのがシュタイナー教育だ。
1919年にルドルフ・シュタイナーがドイツで「自由ヴァルドルフ学校」を設立したのが始まり。海外ではヴァルドルフ教育という呼び名のほうが一般的だ。今年は100周年にあたる。シュタイナーはゲーテから強い影響を受けた思想家で、教育に限らず、農業や医療にも独自の理論を展開した。
日本では俳優の斎藤工さんや村上虹郎さんがシュタイナー教育出身者として有名。海外では女優のサンドラ・ブロック、ポルシェデザイン創業者のフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ、ライカ社社主のアンドレアス・カウフマン、アメリカン・エキスプレスの元CEOのケネス・シュノールトなど。児童文学者のミヒャエル・エンデも短期間だがシュタイナー教育の学校に通っていたことがある。
素朴なおもちゃばかり。人形には表情がない。子どもたちの想像力を邪魔しないためだ(協力:一般社団法人 ヴァルドルフの森 キンダーガルテン なのはな園)
人間はおよそ7年周期で成長するとシュタイナーは説いた。0〜7歳は身体を育てる時期。模倣によって手足の動かし方を学ぶ。またこの時期の子どもはまだ感受性がむき出しなので、過度な刺激から子どもたちを守ってあげる必要がある。
だからシュタイナー教育の幼稚園のなかは薄暗い。壁は淡い桃色で、電灯も淡い桃色の布で覆われている。できるだけ大きな音も立てない。
この時期に知識を詰め込もうとすると、身体を育てるためのエネルギーがそがれてしまうとシュタイナーは考えた。だから文字や数字を教え込んだりすることもしない。子どもたちはもっぱら自由遊びをしながら過ごす。先生たちも自分の仕事をしながらそこにいて、子どもたちをただ見守る。
幼稚園にあるおもちゃも素朴なものばかりだ。自然の小石や木片、どんぐりなどをさまざまなものに見立てて子どもたちは遊ぶ。手作りのお人形には表情がない。ごっこ遊びをしながら、笑っている顔、泣いている顔、怒っている顔などを、想像しながら子どもたちは遊ぶ。子どもたちは想像力を駆使して、何でもつくり出すことができる。
モンテッソーリの幼稚園は、至る所におしごとの道具があって明るくにぎやかなイメージ。子どもたちの印象は、ジブリ映画に出てくる元気で賢い子どもたち。一方、シュタイナーの幼稚園は、薄暗くて静かで、スローライフ系の雰囲気がある。子どもたちのイメージは、エンデの『モモ』に出てくる想像力豊かな素朴な子どもたち。そんな違いがある。どちらがいいということはないが、合う・合わないはあるだろう。
さらに、レッジョ・エミリア教育、ドルトンプラン教育、サドベリー教育、フレネ教育、イエナプラン教育を合わせて、世界7大教育とする。
最近、日本でも注目度が上がっているのがレッジョ・エミリア教育だ。アメリカのグーグルやディズニーの幼稚園でもレッジョ・エミリア教育を取り入れている。
イタリアのレッジョ・エミリア市はイタリア・ファシズムやドイツ・ナチスに最後まで抵抗したレジスタンスの街。そこで第2次世界大戦直後、「もう国に教育を任せてはいられない」と市民が独自に始めた、いわば反骨精神旺盛な教育だ。
レッジョ・エミリア教育の幼稚園では、ピアッツァ(広場)と呼ばれる大きな部屋で、まるで回遊魚のように子どもたちが自由に遊び回る。遊んでいるおもちゃを途中でほっぽってしまってもいちいちお片付けはしない。そのうちまた戻ってきて遊ぶからだ。芸術活動を多く取り入れており、自由な発想で育った子どもたちの作品には生命力があふれている。
ドルトンプラン教育とサドベリー教育、フレネ教育、イエナプラン教育はいずれも幼児教育というよりは、主に小学校以上の学校運営のしくみあるいは理念と考えたほうがいい。
ドルトンプラン教育の特徴は「アサインメント」。生徒には一人ひとり個別の課題が与えられ、それをいつまでにどれだけ終わらせるのかを約束するのだ。どう取り組むかは自由だが、約束は守らなければいけないという意味で厳しい。
受験勉強とも親和性があり、ニューヨークには「ドルトン・スクール」という幼稚園から高校までの一貫教育超進学校がある。日本でも2019年の春、東京都調布市にドルトンプランにのっとった中高一貫校が開校した。
サドベリー教育は、アメリカの「サドベリー・バレー・スクール」の理念に共感し、その理念を踏襲する学校のこと。時間割も授業もない。ずーっと休み時間のような学校だ。「先生」という概念すらない。子どもたちが何かを学び始めるようにそそのかしたり促したりということもしない。
「勝手にしなさい」を徹底すると、そのうち子どもは自ら学びだし、そのときに最大限の効果を発揮する。卒業のタイミングも自分で決める。究極的に「自主自律」の精神を鍛える学校といえる。
フレネ教育とイエナプラン教育は似ている。いわゆる「よみ・かき・そろばん」的な基礎学力については生徒がそれぞれの課題に個別にマイペースに取り組む。一方で、クラスで車座になってお互いの作文を鑑賞したり、学校のルールについて話し合ったりという対話の機会も多い。プロジェクト型の授業も多い。そのような機会を通じて「民主主義社会におけるよき市民」を育てることに重きを置いている。
2019年4月には長野県佐久穂町に日本初となるイエナプラン教育の私立小学校ができた。2022年には広島県福山市に公立のイエナプラン教育の小学校ができる予定。いま注目の教育だ。ちなみに、神奈川県相模原市にはシュタイナー教育に基づく私立小中高一貫校がある。これらはいずれも文部科学省から正規の学校として認められている。
これらの教育に共通するのは、ただ「お勉強のできる子を育てましょう」を目的とはしていない点だ。自由や平和や民主主義を希求する強いメッセージが込められている。
日本では現在、大学入試改革をはじめとする教育改革議論が盛んだが、変化を阻む「あたりまえ」の足かせは手強い。人は誰でも、自分が受けてきた教育を「あたりまえ」だと思ってしまう。だから、「学校には行くもの」「先生の命令は絶対」「なんだかんだいってテストの点数で人生が決まる」などという思いこみから離れられない。
でも、世界のユニークな教育法を知ることで、教育や学校に対する思いこみから自由になれる。個人がそれぞれに「あたりまえ」を脱ぎ捨てた集積として、社会が「あたりまえ」から解放されたとき、ようやく日本の学校も変わることができるはずだ。