18~19歳のときに「読書体験」や「学習習慣」が身に付いている人は、社会人になってもその習慣が維持されるといいます(写真:Greyscale/PIXTA)
「若者の読書量が減った!」と嘆く人は多いが、あなたはどうだったろうか。そして今も、勉強を続けているだろうか。『本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法』の著者であり、APU(立命館アジア太平洋大学)学長の出口治明氏は、「若いときの読書体験が、人生を豊かにする」と説きます。
目次
学生をはじめ若い人たちが本を読まないのは、大人が本を読ませる仕組みを考えないからです。
僕が考える人間観は次のとおりです。
・「人間は、本質的にはチョボチョボ(たいした差がない)でそれほど賢くない」という考え方
・「しかし人間は、勉強したらそれなりに立派な人になる」という考え方
です。
チョボチョボな人間に勉強をさせるには、仕組みをつくるしかありません。例えば、日本人は中学、高校、大学と英語を勉強しているにもかかわらず、英語力はアジア諸国の中でも最低に近いレベルです。では、どうすれば英語力を上げることができるのでしょうか。
極論すれば、経団連、経済同友会、全銀協の会長が集まり、「今後私たちは、TOEFL®90点(120点満点)のスコアを持つ学生でなければ、いっさい採用しない」と宣言する。そうすれば、日本人の英語力は確実に上がると思います。
読書も同じです。大学生の読書量を増やしたいのであれば、企業が面接で「ウォーラーステインをどう思うか」「この1年で読んだ面白い本を10冊挙げてそれぞれにコメントしてください」などと尋ねればいい。
日本の大学生がほとんど本を読まない中、APU(立命館アジア太平洋大学)の学生の読書量が比較的多いのは、「入学式で推薦図書一覧を配布する」「図書館や生協に推薦図書のコーナーを設けている」「ゼミや特別講義で読書を義務付ける」などといった工夫を施しているからです。
人間は本来、とても怠け者の動物です。「本を読め」と言ったところで、それだけでは読みません。「本を読まなければ」と理屈で考えているうちは、本気で取り組むことはないでしょう。しかし、強い動機があれば、それが読書のトリガーになります。
「本を読まないと、就職できない」「本を読まないと、落第する」という状況に追い込まれたら、学生は勉強する(本を読む)ようになるはずです。
最新の脳科学によると、向学心や好奇心は、18~19歳でピークを迎えるという研究結果が出ています。
この時期にきちんとした学習習慣や学習意欲を身に付け、「学ぶことは楽しい」という感覚を覚えると、社会人になっても、学習習慣や学習意欲がそのまま持続します。そして、社会人になっても学び続ける人は、生涯所得が高いことが実証されています。
すなわち、楽しく豊かな人生を送るためには、18~19歳での「読書体験」や「学習習慣」が決定的な役割を担っているのです。
ここで、僕が読んできた本の中で、最近、印象に残っている本を紹介してみたいと思います。とくに10代をはじめ若い方に向けて、「世の中の“ファクト”について考える」ための本を3冊、紹介します。
・『陰謀の日本中世史』(呉座勇一(著)/角川新書)
本書は、具体的な史実に照らして、もっともらしい陰謀論やトンデモ説を一刀両断に裁く本です。
人はなぜ、陰謀論を信じるのでしょうか。それは、単純明快でわかりやすく、「歴史の真実を知っているという優越感」を抱けるからです。
著者の呉座勇一さんは、歴史の安易な物語化が続いてきたのは専門家が誤りを指摘してこなかったからだ、という主旨のことを書いています。陰謀論を暴いても専門家の研究業績にはなりませんから、無視を決め込む。その結果、陰謀論やトンデモ説は生き続け、フェイクニュースの温床になります。
いまだに「本能寺の変には黒幕がいた」とする説があります。著者は朝廷黒幕説、足利義昭黒幕説、イエズス会黒幕説、家康黒幕説を順に紹介し、それぞれの問題点を史料に基づいて丁寧に解説しています。本書を読めば、本能寺の変に黒幕は存在せず、光秀の単独犯行であったことがよくわかります。
歴史は面白いので、多くの人が安易に物語化します。有名な作家が物語化すると、読者はそれを史実だと信じてしまう。でもそれは、あくまでもエンターテインメントです。史実とフィクション、エンターテインメントと史実は、分けて考える必要があります。
歴史にはさまざまな解釈があってもいい。しかし、解釈には数字、ファクト(事実)、ロジック(論理)という根拠が必要です。
「こういう文献があって、こういうファクトがあるから、こう解釈してもいいのではないか」と、数字とファクトとロジックを使って議論しながら、1つの真実に近づいていく学問が歴史です。
『陰謀の日本中世史』は、陰謀論の誤りを数字、ファクト、ロジックで徹底論破する必読の歴史入門書です。
・『脳はみんな病んでいる』(池谷裕二、中村うさぎ(著)/新潮社)
本書は、脳研究者の池谷裕二先生と作家の中村うさぎさんの対談です。
池谷先生は、本書の中で、脳は「身勝手なストーリーテラー」だと述べています。脳は断片的な情報を与えられると、つじつまの合いそうなストーリーを自然と構築するそうです。
この脳の特性は、「見る」という行為にも関係しています。僕たちはいろいろなものを見ていますが、目の網膜から入ってくる情報は、パルス信号にすぎません、その信号を受け取った脳が、これまでの経験などを基に情報を補完し、解釈しているそうです。池谷先生は、「見る」とは「信じる」に近い行為だと述べています。
なぜ認知症の老人は夫や妻の顔を忘れるのか? 最新科学は遺伝病を根絶できるのか? 天才の37%は発達障害というのは本当か……? 脳の仕組み、脳の歪み、正常とは何か、常識とは何かを知る意味でとても参考になる本です。
・『ファクトフルネス10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド(著)、上杉周作、関美和(翻訳)/日経BP)
本書は、教育、貧困、環境、エネルギー、人口など幅広い分野を取り上げ、最新の統計データを紹介しながら、世界の正しい見方を紹介しています。
本書のイントロダクションでは、著者のハンス・ロスリング氏が長年にわたって世界のエリート(著名な科学者、投資銀行の銀行員、ジャーナリスト、政界トップなど)に出してきた13問のクイズが用意されています。例えば、「質問3 世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう? A:約2倍になった、B:あまり変わっていない、C:半分になった」などです。
答えはこの本の中で確認してもらいたいのですが、どの質問も大半の人は正解率が3分の1以下で、しかも優秀な人(専門家、学歴が高い人、社会的な地位がある人)ほど正解率が低くなっています。本を選び、読み、生かすにはどうすればいいか。還暦ベンチャー(ライフネット生命)、古希学長(立命館アジア太平洋大学)にして、希代の読書家が「本を活かせる人の習慣」を、深く、やさしく解説。
仮にこのクイズを動物園のチンパンジーに出したとすると、ランダムに答えるチンパンジーよりも人間の正解率のほうが低くなるそうです。
事実と、世の中の常識的な見方はどうして異なってしまうのか。その理由は、「世界は分断されているという思い込み(分断本能)」や「世界はどんどん悪くなっているという思い込み(ネガティブ本能)」などの10の思い込みにとらわれてしまっているからです。
しかし、数字、ファクト、ロジックに基づいて考えれば、思い込みや固定観念に惑わされず、世界を正しく捉えることが可能です。
聞きかじっただけの情報を基にしていては、適切な判断などできるわけがありません。本書は、「データの裏付けのないものは、勝手な思い込みにすぎない」ことを改めて教えてくれる良書です。
皆さん、こんにちは!
— ㈱Prevision-Consulting (@previsioninfo) February 21, 2024
現在多機能型施設のオープン準備中ですが、平行して厚生労働省に就業支援団体の登録を進めようと思っています。
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今後ともよろしくお願い申し上げます。