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『大病を会社に告知すると解雇・異動されるか』会社の産業医には守秘義務がある

『大病を会社に告知すると解雇・異動されるか』会社の産業医には守秘義務がある

受けた健康診断で「精密検査」が必要になり、数日入院することに……。そうしたとき悩むのが会社への告知だ。

再検査なら告知しなくても

会社の健康診断や人間ドックで、要再検査や要精密検査の通知が出たら、不安に駆られるのと同時に頭を悩ませるのが、それを会社に知らせるか否かではないだろうか。

「上司や同僚に気を使わせるのは嫌だし、大きな病気が見つかれば仕事やキャリアにも悪影響を及ぼしかねない」との不安がつきまとう。実際、病気と診断され入院することになったときの心配ごととして、入院や手術の費用、入院期間に続き、職場復帰や担当している仕事の状況など仕事に関する心配が大きな割合を占めている(図参照)。

がん患者の就労支援をはじめさまざまな支援活動を行うキャンサー・ソリューションズ社長の桜井なおみさんは、「再検査は通常、半日か1日で済むので、会社に告知せずに有給休暇などを使ってもいいと思います」と助言する。桜井さん自身、乳がんを経験しているそうだ。

会社に告知することをおすすめします

再検査は、健診で検知された異常な数値が一時的なものか、それとも実際に体に問題があるのかを調べるもの。その再検査の結果、異常がなければ問題なし。一方、異常値が再び検出された場合は、精密検査で具体的にどのような原因疾患によって引き起こされているのか、また治療が必要なのかを調べる。なかには入院を要するものもある。桜井さんは「精密検査は何回かに分けて調べるため、数日かかることもあります。その場合は会社に告知することをおすすめします」といい、その理由について、次のように説明する。

「告知しておけば、大事な会議が検査日と重なったときなど、延期のお願いができます。黙ってドタキャンして会議が延期になると、周りも困ります。理由がわかれば納得してくれるもの。また検査内容によっては、前日は禁食しなければならないのに、大事な接待や会食があると困ります。がんのCT(コンピュータ断層撮影)検査などは予約変更が難しい。混んでいるので次は1カ月後ということになると、診断の遅れにつながりかねません」(桜井さん)

別の視点から会社への告知をすすめるのが、健康管理の体制づくりなどの相談にのっている特定社会保険労務士で日比谷ステーション社労士事務所代表の荒久美子さんだ。

「検査した結果、がんなどの大病とわかり、その後の職場復帰を前提に考えた場合、事前に告知しておくことが大事だと思います。何もいわずに、治療を開始してから会社に告知すると、上司や同僚も戸惑うばかりでしょう。それと会社側には『安全配慮義務』が課せられていることを理解しておく必要があります。労働契約法によって病気に配慮しながら仕事を配分するなど、従業員が安全で健康に働けるように配慮する義務が定められているのです。事前に告知しておけば、万が一の場合に会社側もスムーズに配慮する体制を組めるようになります」

実際に告知するか悩む原因の1つが、いざ病気がわかり、治療した後の職場復帰のことだろう。「もしかして解雇されたり、異動させられたりするのではないか」という不安な気持ちに襲われる。しかし、職場復帰後の働き方にも詳しい桜井さんは「会社としてもベテランの人材が抜けるのは大きな損失です。介護離職を防ぐ制度を整える会社が増えているように、がんなどの重い病気も同じで、なるべく同じ職場で続けて働いてもらいたいという考えが会社にはあります」という。

職場での円満な人間関係や、病気がわかったときのことを考えても、精密検査の段階で会社に告知しておいたほうが得策だといえそうだ。

「配慮」をベースに告知を考える

では、実際の告知は誰にすればよいのだろうか。荒さんは「若手・中堅社員であれば、直属の上司を通して人事部へ。管理職の場合は直接人事部へという人が多いです。どのような場合に休職や時短勤務が可能かなど、ほとんどの従業員は知りません。告知することによって、人事部からさまざまで有益な情報を与えてもらえます」とアドバイスする。

とはいえ、なかにはどうしても会社にいい出しづらいという人もいるだろう。そんなときに、頼れる存在になってくれるのが産業医だ。

「従業員50人以上の会社は産業医を置くよう法律で義務づけられています。大きな会社ならほかに産業保健師もいるので、人事部などに話をしにくければ、そういうところにまず相談しましょう。精神的にもつらい状態なので、話を聞いてもらって、落ち着いて考えるのはいいことだと思います」と荒さんはいう。

産業医は会社側の人間だと思っている人がいるかもしれない。しかし、2019年4月から施行された働き方改革関連法に伴って、労働者の健康に関する情報の守秘義務が強化された。安心してまずは産業医に状況を打ち明け、そのうえで必要に応じて付き添いをお願いして、上司や人事に話を持っていく方法もあるのだ。

一方で、上司や同僚など周囲への告知は「配慮」をベースにして考えることを、アドバイスするのが桜井さんである。

「一番大切なのは、告知する相手は自分が配慮をしてほしいと考えている人だということです。なぜ上司に告知するかというと、裁量権を持っていて休み方や働き方について配慮してもらえるから。そして同僚に告知するのは、会議の資料を取っておいてもらったり、話し合った内容を後日教えてもらうなどの配慮をお願いするためです。そう考えると、告知する相手もはっきりして、告知にまつわる抵抗感も和らぐのではないでしょうか」

最後にもう一点、告知での大事なポイントとして桜井さんが指摘するのが「これまでの勤務態度」である。「仕事に一生懸命取り組んでいる人ならば、告知をしても上司や同僚らは積極的に配慮してくれるはず。しかし、仕事がいい加減で協調性もない人は、告知や病気を機に周りから距離を置かれるかもしれません。これまで真剣に仕事に取り組み、職場内での信頼関係も構築できているという自負があるのなら、正々堂々と告知したらよいのです」と桜井さんはいう。

たとえ検査入院であっても臆することなく告知をして、病気とわかったら一日も早く治し、堂々と職場に復帰することが賢明なようだ。


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