人工妊娠中絶を外科的な処置をせずに薬で行う「経口中絶薬」の国内での治験の結果、93%が想定の時間内に薬だけで完了し、有効性と安全性は確認されたと22日、学会で報告されました。製薬会社は年内をめどに中絶薬として国内で初めて国に承認の申請をする見通しです。
薬による妊娠中絶は「ミフェプリストン」と「ミソプロストール」という2種類を順番に服用することで、妊娠の継続を止め、胎児や胎盤を排出させるもので、WHO=世界保健機関が安全な方法として推奨しています。
世界では70か国以上で承認されていますが、日本ではほとんど知られておらず、女性団体や医療関係者が女性の心身の負担軽減のために承認が必要だと訴えていました。
こうした中、イギリスの製薬会社「ラインファーマ」が、日本国内で有効性と安全性を確かめるために行った治験の結果が、22日から始まった日本産科婦人科学会で報告されました。
これによりますと治験では、去年6月までに妊娠9週までの120人に薬を投与した結果、93%に当たる112人が想定の24時間以内に薬だけで中絶を完了したということです。
残る8人は、一部が体内に残り外科的な処置が必要になったり、時間内に排出されなかったということです。
また、6割に当たる71人が海外でも報告されている腹痛やおう吐などの症状を訴え、このうち薬の副作用と判断されたのは45人で、1人に発熱や出血による貧血など重い症状があったということです。
産婦人科医で今回発表した東京大学の大須賀穣教授は「症状はほとんど軽度か中等度で、いずれも回復に向かったとのことで、日本人に対する有効性と安全性が示された」と報告しました。
ラインファーマは年内をめどに中絶薬として国内で初めて、国に承認の申請を行う見通しで、その後の審査で認められれば、手術を伴わない方法の選択肢が広がることになります。
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今回の治験は全国各地の医療機関で、参加の承諾を得られた妊娠9週までの18歳から45歳の女性120人を対象に行われました。
治験では正常な妊娠と確認したうえで、医師の前で「ミフェプリストン」という妊娠の継続に必要なホルモンの働きを抑える薬を飲んで1度帰宅し、2日後に再び医療機関を訪れ「ミソプロストール」という子宮を収縮させて、人工的に流産を起こさせる薬を摂取する方法で行われました。
「ミソプロストール」を服用すると、生理の時のような痛みや出血を伴い、海外ではけん怠感、頭痛、めまい、それにおう吐などの症状も報告されたことから、治験では痛み止めを一緒に飲み、医療機関に滞在して様子をみる形で行われました。
その結果、120人のうち、93%に当たる112人が「ミソプロストール」を服用後、想定された24時間以内に薬だけで中絶を完了したということです。
残る8人のうち3人は一部が子宮内に残り、外科的な処置が必要になったほか、5人は24時間では排出されず、このうち1人はそのまま様子をみたところ、48時間以内に完了し、4人は本人の希望により手術をしたということです。
また、治験の間に59%に当たる71人が、腹痛やおう吐などの症状を訴え、このうち薬の副作用と判断されたのは45人で、この中で子宮内に一部が残った1人に発熱や出血による貧血など重い症状があったということです。
学会の発表では、ほとんどが軽度か中等度の症状でいずれも回復に向かったことから、日本人に対する有効性と安全性が示されたと報告されました。
治験を担当した医師の1人は「患者は生理痛のような痛みを訴えていたが、大量の出血など大きなトラブルはなかった。中絶そのものがなくなっていくことが望ましいので、体外に排出されるまでの時間を今後の避妊や妊娠についてのカウンセリングに活用した」と話しています。
日本では年間15万件余りの人工妊娠中絶が行われていますが、中絶薬は承認されておらず、日本産婦人科医会の2012年度の調査では子宮に器具を入れて、胎児や胎盤をかき出す「そうは法」での中絶が3割、器具で吸い取る「吸引法」が2割、両方を併用する方法が5割となっています。
このうち「そうは法」については、WHO=世界保健機関が母体を傷つけるおそれのある時代遅れの方法だとして、別の方法に切り替えるよう推奨していますが、厚生労働省では「調査などから安全性が確認されている」としています。
一方「中絶薬」については、WHOが安全な方法として推奨していて、1988年にフランスなどで承認されて以降、70か国以上で認められていますが、日本では厚生労働省が、インターネットを通じて購入した中絶薬を使った女性が、大量に出血するなどして受診した事例があったとして、個人の輸入を制限し、使用しないよう呼びかけています。
これに対し、女性の健康と権利を求める団体や医療関係者からは、中絶薬のほうが体や精神面への負担が少ないとして、承認を求める声が上がっていました。
また、性暴力や相手が避妊に非協力的なことなどによる、予期せぬ妊娠が課題となる中、中絶手術に初期は10万円から20万円、中期は40万円から60万円かかるとされる現状も負担だと指摘されています。
さらに、不妊治療などで流産した場合にも、中絶の時と同じ外科的な処置が行われることがあり、精神的な負担が大きいとして、国会でも中絶薬の承認を急ぐよう議論が交わされています。
安全な中絶について情報を発信してきた「セーフ アボーション ジャパン プロジェクト」の代表で、産婦人科医の遠見才希子さんは「現状、日本では妊娠初期の中絶は自由診療で当事者の負担が10万円から20万円ほどと大きく、中には金銭的に厳しく出産に至るケースもある。必要とする女性が、適切な価格で安全な薬にアクセスできることは基本的な人権として、日本も認めていく段階にあるのではないか」と話しています。
遠見さんは「想像以上に一人一人異なる理由と背景があるので、すごく難しい問題だ」としながら「これまで手術しか選択肢がなかったので中絶薬について適切に情報提供をするとともにこれを機会に女性の健康を守る安全な選択肢の1つだという国際スタンダードの共通認識をぜひ多くの方に持っていただきたい」と話していました。
人工妊娠中絶は国内では母体保護法で定められた適応条件のもとで妊娠初期を中心に行われています。
海外では宗教上の理由などで認めていないところもありますが、行われているところでは内服薬を使用する方法が主流となっています。
WHO=世界保健機関が2012年に発表したガイドラインでは、日本で一般的に行われている「そうは法」は子宮内を傷つけるなどのリスクがあるため、実施するべきではなく、薬か真空吸引法に切り替えるべきだとした上で経口中絶薬を「必須医薬品」に指定しています。
国連人口基金によりますと、海外での経口中絶薬の平均価格はおよそ4ドルから12ドル、日本円にして430円から1300円ほどで30年以上前から安全で価格も安い薬が使われているということです。
産婦人科の医師などの国際的な団体、国際産婦人科連合もことし3月、各国に対し新型コロナウイルスが流行している期間中もすべての女性が安全に人工妊娠中絶ができるようにすることを求める声明を出しています。
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— ㈱Prevision-Consulting (@previsioninfo) February 21, 2024
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